前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第165回
個人主義者は野蛮人?

国民学校の寮で相部屋だった、
サーンというフルート奏者に、
25年ぶりに教会のコンサートで再会しました。
寮の仲間は「20歳なのに50歳に見える」と言いましたが、
それ程でもないけどその頃から今と余り変わらず、
老成した感じでした。
音楽については頑固で、
ピアノの先生は
「弾き方は私の意見を聞き入れないです」と嘆いていました。

寮の部屋では その彼と私は下手な英語でよく話をしましたが、
ゲーテの“ファウスト”の話を始めたら、こう言いました。
「 君には“ファウスト” の個人主義は分らないだろう」
「・・・?」断定されましたが反論しにくいです。
「東洋人にはヨーロッパの個人主義は分らないと思うよ」
私はその意味が、
日本でよく言う
「外人には日本人の心は理解できないよ」のたぐいか、
と長らく思っていました。
「あなたの理解は間違っていて、
日本人(ヨーロッパ人)の私には
日本人(ファウスト)の心が分かり、
あなたには分っていないことさえ理解できない」
と言う意味かと思いました。
―「日本人」の代わりに( )がそのまま入ります―
しかし、この場合は英語の「分る」の意味が
日本語の「分る」とは、ずれていたようです。
ファウストの生き方を「よいと思う」「肯定する」を含むのでした。
英語が苦手な私が“あの時はそうだったのか”と、思い至ったのは、
デンマークに住んでから長く、人生も後半においてでした。
サーンは、恋人を妊娠させて見殺しにした
自分勝手なファウストを、私が「分らない」だろう、
と言ったのだと思います。
ファウストも“やむにやまれず”ではありましたが。

「宝島」という少年小説を読んだときにも、
私には「分らない」ところがありました。
強盗で人殺しの悪役シルバーが負けて逃げていく場面で、
作者は登場人物を使って「大した奴だ」感嘆してみせるのです。
その台詞を言うのが、仲間を殺された善玉の登場人物なのです。
被害者も主張をしないと、忘れられがちなところがあります。
恋愛、金儲け、慈善、悪事さえも、
他人はどうあれ
「自分のしたいことをするのは良いこと」という感じです。
自分個人がやりたいことをしたのなら、
その点では良い、と肯定して、
それが人生を充分に生きることだと思っているみたいです。

―この回の題は、空手4段のドイツ人の友人の言葉の拝借で、
本当は「ヨーロピアンはバーバリアン」と、よく言っていました。
彼の場合は
“弟子が老いた先生より強いのは当たり前なのに、
そうなると欧米人は先生を軽んじる”
といったことを指していました―


←前回記事へ

2005年3月3日(木)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ