前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第266回
北海の脂泥棒

かなり前のことですが、
夏の休暇に、ノルウェーのフィヨルドを迂回しながら、
車で夏の旅を続けていました。
途中で、遠くに見えた人影にだんだん近づいて行くと、
数人の子供が釣りをしているのが見えてきました。
フィヨルドは、遠めには川か湖のように見えます。
ところが、釣り上げて草の上に放ってあるのがニシンなので、
“これは海なのだ”とやっと納得できるのでした。

リアス式の海岸は、雑草の花の咲く岸辺から、
突然に、底知れぬ海になります。
風がなくて、波一つ無い水面は絵のようで、
絵よりも美しい風景でした。
草の上のニシンは、微かに跳ねようとして体をそらせました。

この近くの海で、私の友人のTさんが同好の士と一緒に海に潜って、
初めてシャチの見学をしたのでした。
海水浴には冷たい海だと思いますが、
Tさんはダイビングのベテランです。

シャチはデンマーク語で「脂盗り」という名前で呼ばれます。
鯨の顎の下の脂が好物のようで、
鯨を襲い、そこだけ齧って食べ残していくそうです。
大きな鯨を襲うほど獰猛なのです。
その他の狩で有名なのは、下から超音波で泡の筒を作って、
中にニシンを追い込んでいくやり方です。
これは鯨の仲間に共通した漁法だそうです。
そうやってニシンの群れを、水面近くの狭い所に集めておいて、
下から一気に飲み込むのです。

シャチはニシンの昼飯を終たばかり、空腹ではないはずでした。
Tさん達が水に潜ってしばらくすると、
姿は見えませんが何か大きな生き物のいる気配を感じたそうです。
そして突然、大きな気配は、向こうからグングン迫ってきました。
Tさんの心臓は期待と不安で、早く強く脈打ち、
胸がつかえるような息苦しさを感じました。。
しかし・・・、気配は近くまで来ると急に反転して、
そのまま彼方に去ってしまいました。
続いて、水だけがこちらの方に動いてきて、
銀色にきらめく光が、さっと辺りを埋め尽くしました。
シャチもニシンの姿も見えず、
たった今食べたばかりのニシンの鱗だけが、
太陽の光を反射してきらめいたのです。
同時にニシンの脂で、周りの水が濁りました。
それが、圧倒的な量の、シャチの食べ滓なのでした。


←前回記事へ

2005年7月22日(金)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ