死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第13回
本当はオヤジの式だから

といったわけで仲人と司会を誰にお願いするかについては、
私の家でも大議論になった。

娘の結婚の時はたまたま両家の共通の友人でもあり、
子供たちが共通して尊敬している
小谷正一さんという恰好の人がいたので、
仲人はすぐにきまったが、
うちの長男の場合は、実業家のタマゴだから
文士とか出版社の社長さんというわけには行かない。

文土では駄目、出版屋では手に合わないということではないが、
世の中には話をしていて、
うまの合う人と合わない人、中国語でいえば
「投機する人」と「投機しない人」というのがあるものである。

下の息子なら、いくぶん芸術家肌だから、
ジャーナリズムに棲息する人種のセンスが
ピンと来るだろうが、上の息子では、ハイハイ、と言って
おとなしく聞いているだけのことになるだろう。

実業家で、私たちの一家と仲が好くて、
私たちより年が若く、つまり私たちよりも長く生きて、
私たちが死んだあとも親代わりに相談に乗ってもらえそうな人、
ということになると、
女房がまず丸井の青井忠雄さんを頭に浮べ、
あの人にお願いしてはどうでしょうか、と言い出した。

青井さんご夫妻なら、私のうちに食事に来られる仲間だし、
二代目ながら、父上の遺業をついで
年商二千何百億円という日本一のクレジット会社に発展させた
腕ききの少壮実業家である。

「青井さんと悦ちゃんなら、
星を見てもうまく話が合いますよ」
と占星術をアルバイトにしたことのあるうちの娘が
すぐに賛意を示した。

私が電話をかけてお願いすると、青井さんは、
「センセイのご命令(?)では、ことわれませんな。困ったなあ」
と言ったが、挨拶にうちの息子が伺うと、
はたして大へん気に入ってくれ、
「君の結婚式というけれど、
本当は君のオヤジの結婚式だからねえ」
と言って大笑したそうである。





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2012年12月4日(火)

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