死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第19回
それでもやはり時間はかかる

私は、私の家で会食をする場合の人選びで
何回も経験しているので、
座席のことでは殊の外、注意を払う。

うっかり虫の好かない同士や
話のレべルがかみあわない人を隣同士に坐らせたりすると、
座が白けてしまうからである・

たとえば、日木一の名プランナーとして
私の尊敬している小谷正一さんには
左隣に作家の深田祐介夫妻、
右隣にポーラ化粧品社長の鈴木常司氏に
坐ってもらう予定をしていた。

鈴木さんは人も知る美術品のコレクターで、
ポーラの社長室には
一枚何億円というような印象派の絵画がズラリと並んでいる。
また堀柳女の人形も何気なくおかれている。

だからその隣に彫刻家の向井良吉氏に坐ってもらえば、
何かと話に花が咲くのではないかと思った。

ところが、二、三日前になってから
小谷さんより急用のため欠席という通知があった。
小谷さんがぬけるとなると、
そこに誰かを補充しなければならない。

急遽、プレジデント社社長の本多光夫さんに
補欠を願うことになった
(といっても本人には何も言っているわけではないが)。

もともと木多さんには
イトーヨーカ堂社長の伊藤雅俊さんと
作家安岡章太郎さんの間に坐ってもらうことになっていた。
『プレジデント』は経済雑誌の今やナンバーワンだし、
本多さんは一面において安岡さんと
家族ぐるみのつきあいがあるからである。

それを動かすとなると、
またその間を埋めなければならぬ。
結局、日本三大ケチの一人として名を売った
大阪の吉本建物社長の吉本晴彦氏に
その間に入ってもらったが、
二日ですませるつもりの席順づくりに
何とまたまた一週間もかかってしまったのである。





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2012年12月10日(月)

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