死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第25回
「男の品位を保つ」とは

花嫁はそれでいいとしても、
最近は花嫁だけでなく、花婿まで
お化粧直しをやりだがるそうである。
その分だけ男女の区別がなくなって、
モノセックス化したということであろうが、
私のうちは「男の品位」というものをかなり重大に考えている。

男がおしゃれに心を砕くのはよい。
着る物にお金を使うのもかまわない。
むしろ、そうすることが
「男の品位」を保つ条件の一つだとさえ思っている。

しかしおしゃれをすることと、
チンドン屋のようなオドけた服装や
俳優さんのような派手な服装をすることとは
明らかに別なことだし、
まして男の子が服装に気をとられていると
一見してわかるような素振りは禁物である。

幸い、うちの長男は服装にはこだわらない方で、
アメリカにいた時分は、
アメリカ式のシンプルライフにも
ちゃんと溶け込んで生活をしてきたから、
「僕のタキシードは借りることにしよう。
白いタキシードはどうせほかに着るチャンスがないから」と、
金三万円でホテルの貸衣装部と話をつけた。

もし「途中でキモノに着替えるよ」などと言いだしたら、
「じゃパパは結婚式に出席するのは遠慮しよう」
と切りかえすつもりであったが、その必要は全くなかった。

花嫁が仲人の奥様につき添われて、
お化粧直しに行っているあいだ、
花婿が一人辛抱強く、礼儀正しく、
雛壇で待っている姿はなかなかいいものである。
それを新郎まで一緒になって
おめかしをしに引っこむようなことにでもなったら、
そんな息子はうちには要らないなあ、と私は思うのである。





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2012年12月18日(火)

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