死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第26回
すぐに流行る披露宴の演出

お化粧直しのあとで、新郎新婦が長い棒の先に火ダネをつけて、
来客の各テーブルに灯をともしてまわる風習は
いつ頃からはじまったのであろうか。
結婚披露宴の演出は変わり映えのしないものが多いから、
誰かが少し気のきいた趣向をこらしたら、
忽ち真似をする人が現れて、ホテル側でも、
お客にすすめたりするのではあるまいか。

私は、職業柄、よく色紙に何か書いてくれと頼まれることが多く、
家でお客を招待した時のメニューもすべて色紙に書き込んで、
来客にサインしてもらっているので、色紙とは割合に縁が深い。

有名な小説家で、私の家においでになった方に、
思い切って色紙の揮豪でもお願いしておけば、
いま頃は相当値打ちも出ているのではないかと思う。
でも、同業者という意識も働くし、そういう人の家に行った時に、
こちらが色紙を書かされても何となく
カッコがつかない気がするので、つい頼みそびれてしまったが、
もう故人になってしまった人のことを思うと、やっばりあの時、
はにかんだりしなかった方がよかったなあ、と後悔するのである。

だから、娘の結婚式の時に、
各テーブルに色紙とボールペンを用意して、
「新郎新婦に何か一言!」とお願いした。
三時間の間に何か考えて、好きな言葉か、
若いカップルにアドバイスの一つも書いてもらえば、
いい思い出になる、と思ったのである。

事実、それは娘たちにとっても、金では買えない、
素晴らしい家宝になった筈であるが、
しばらくたって、知人の子供の結婚披露に行ったら、
全く同じように、色紙が出てきたのには驚いた。
あるいは、私が自分で思いついて提案したつもりでも、
私よりずっと前からそういうことを
やっていた人があるのかもしれない。

それにしても、新規のプランの伝播度の何と早いことよ。

そういう意味では、蝋燭に火をつける行事も、
案外、歴史の浅いもので、
どこか外国の風習を取り入れてきたものではないかと思う。
蝋燭に火をつけることがどれほど意味があるか不明だが、
各テーブルに顔出しをして挨拶をするきっかけになるから、
演出としてはそう悪いものではない。

中国人の結婚式だと、新郎新婦が杯をもって、
各テープルに酒をすすめてまわる。

酒をすすめるのは自分も一緒になって酒を飲むことだから、
何十卓もまわったら、それこそへべれけになってしまう。
だから、酒のいける友人を二、三人選抜して、
ピンチ・ヒッ夕ーとして一緒につれてまわり、
花婿が「乾杯!」とやって、皆がそれに応ずると、
ピンチ・ヒッターが代わりに飲むのである。
お客の中には、テーブルで乾杯する以外に、
何かと理由をつけてはまた花婿に乾杯を強要する人もあるから、
ピンチ・ヒッ夕ーといえども、
酒量によほどの自信をもっていなければ、つとまらないのである。





←前回記事へ

2012年12月19日(水)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ