死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第51回
健康を保つ条件

もう一つのしあわせは、多分、健康であろう。
健康であることは、人生を快適に生きるための
手段の一つであるから、それ自身は「手段」の筈である。
しかし、歯が痛くなければ、歯の存在がわからないように、
病気にならなければ健康の有難さはわからない。

だから、病気にならないように健康に気をつけるあまり、
しまいには「健康であること」が
目的であるような生活を送る人も出てくる。

たとえば、病気になった人が医者のところに行くと、
健康を保つ条件として(1)酒を飲みすぎないこと、
(2)煙草を喫みすぎないこと、
(3)夜更かしをしないこと、
(4)あんまりセックスの度が過ぎないようにすること、
など注意を受ける。

世の中には、またおめでたい人がいて
それをまともに受けて、酒を飲まず、煙草も喫みすぎないこと、
女遊びもせずに木石のような一生を終る人もあるが、
これくらいバカげた話もないであろう。

先ず第一に、患者にそういう注意をあたえる医者が
そのとおりに実行していないことである。
第二に、身体に悪いことをやって、
時々、身体を痛めつけなければ、
何が身体に悪いことか、わからない。
だから、身体を痛めつけることが
身体をきたえる方法の一つである。

第三に、悪いことをどれだけやっても、
身体が元気でおられる人は、
身体が酷使に耐えられるほど丈夫な証であるから、
精々、元気な間に、悪いことをしておくに限る。

万一、身体に故障が起って医者の世話になるようになったら、
身体に悪いことを一つずつやめて行けばよい。
たとえば、先ず酒をやめるとすると、
負担がその分だけ軽くなるから、
またしばらく元に戻る。
次にまた病気になったら、今度は煙草をやめる、
という具合に、悪いことをふだんからたくさんやっておれば、
全部、やめるまでに時間がかかるから、大分、長持ちする。

もし医者の注意を守って、
悪いことは一切やらないで病気になったら、
それこそ死ぬよりほかないであろう。
ある程度悪いことをすることが、
悪いことに強くなる一番手近な道なのだ。





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2012年1月27日(日)

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