死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第74回
「昂」をBGMに

さて、坊さんに来てもらわないとすれば、
あとは音をどうするかが一番大問題になる。
第四に、お経や木魚のない葬式だから、
参列者をセンチメンタルにするために
ふだん私の愛唱してきた歌のうちで、
葬式にふさわしいものをテープで流してもらう。

私がかねてから葬式に一番ふさわしい歌と思っているのは、
谷村新司歌うところの「昴」であって、
メロディーはもとよりのこと、
「我は行く蒼白き頬のままで」とか
「ああ、いつの日か、誰かがこの道を」
などといった文句は、如何にも死を象微するセりフではないか。

私があまりそう言うので、
女房は「心配しないでも、葬式の時には、
ちゃんと谷村さんを呼んで歌ってもらうようにしますから」
と冗談を言っているが、
まさか死んだ時だけ来てもらうこともできないから、
生きているうちに知り合いになっておきたいものだと思っている。

谷村さんの歌の中では「天狼」というのがもう一曲、
ほかに美空ひばりの「悲しい酒」「影を慕いて」、
松尾和子の「誰よりも君を愛す」、
佐川満男の「無情の夢」、
西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」「夜が切ない」、
松山恵子の「別れの入場券」、梓みちよの「二人でお酒を」、
越路吹雪の「ラストダンスは私に」「イカルスの星」、
中国の歌では「情人的眼涙」「漁光曲」「何日君再来」
そして、自分が作詞をした「恋のインターチェンジ」
「南国の花」「溺愛」も中に入れてもらうとしようか。

これらの曲をエンドレス・テープでやってもらえば、
参列者が絶えるまで鳴り続けてくれるだろう。
あとは季節の花を一本ずつ棺桶の前にあげてくれれば、
それで私の葬式はおしまいにしてもらいたい。





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2012年2月19日(火)

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