死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第79回
考え方の順序

定年前に会社を辞めるもうーつの可能性は、
会社が倒産に追い込まれた場合と、
倒産まで行かなくとも、業績が著しく悪化して
人員の整理に追い込まれた場合であろう。

興人、永大産業、安宅産業、と数え上げたものだけでも、
倒産に追い込まれたために、好むと好まざるとに拘らず、
一生を託するつもりだった会社から放り出された人は多い。
こういう場合は、「辞める」というよりは、
否応なしに「辞めさせられる」のだから、
選択の理由はないに近い。

安宅産業のように、吸収合併される場合には、
合併する側の会社から誘いをかけられることもあるが、
合併されれば外様だから、出世街道の主流に入ることは難しい。
重役コースに乗ることは当然、無理であり、
譜代の人たちをかきわけて部長になることだってできないと
覚悟しておいた方がよいだろう。
だからこの際辞めて、自分たちの仲間で
「独立して小さな会社をやるか」、
それとも「新しい主人に仕えることにするか」
といった選択の余地は少しばかり残されている。

ただ、この場合は、先ず第一に、
世間から同情される立場にあるし、
第二に、無能であるとか、
会社人間としての欠陥があるわけではないから、
それ相応のことができるだろうし、
第三に人間、逆境に置かれれば、
それなりに環境に即応していけるものだし、
第四に、どうせ五年後か十年後に定年を控えて、
いつかは同じ目に遭わされるのなら、
少し早めに辞めても同じだ、ということも考えられる。

もう一つは、会社の業績がはかばかしくないために、
人員整理の対象にされた場合である。

この場合も、業績の良い会社で
退職金をもらうようなわけにはいかないが、
定年にもなっていないのに、割増し加算して、
定年時以上の退職金を払ってくれるところもある。

たとえば「どちらがトクか」といった問題を突きつけられると、
ついソロバンをはじいてみたくなるのが
サラリーマンの心情であるが、
そういう計算をする奴で、
辞めたあとに大をなした人は一人もいない。

辞めるか、辞めないかは、得か損かの問題ではなくて、
「辞めたあとに何をするか」、もしく
「五十五歳になって二千万円もらうのと、
五十歳で二千二百万円もらって辞めるのとは
「やりたいと思っていることが先にあって、
の順序だからである。
辞めたものか、残ったものか」
と考えるのが物の順序だからである。





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2012年2月24日(日)

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