死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第91回
現実的な若者の夢

私たちの子供の頃は、
女の子に「オトナになったら、何になりますか?」と聞いたら、
「お嫁さんになります」という答えが多かった。

花嫁衣装を着た晴れ姿は、
歌の文句にもあるように、女性のあこがれのマトであり、
それが女としての絶頂であることに間違いはない。

女の将来がお嫁さんなら、
男もお婿さんになりそうなものだが、
男の子で「お婿さんになります」と答える者は一人もいない。

戦争中は、「陸軍大将になります」
「総理大臣になります」というのが多かったが、
今の子供はおませで、
物心がつく頃からテレビを見ているから、
総理大臣になる夢を見る人はほとんどいない。
国会の答弁などで
盛んにとっちめられている総理大臣の姿を見ているせいもあるが、
一億ニ千万のなかのホンの数人にしかまわってこない確率が
どんなものであるかを熟知しているからでもあろう。

そう言えば、大学出で大企業に就職するフレッシュマンで、
将来、社長になる夢を見ている人も至って少ない。
一万分の一の確率にかけるよりも、
宝クジにでもかけた方がまだましだからである。

「こんなに上が詰まっていては、
部長どころか、課長どまりでしょうね」
と志の低いことを言う若者もたくさんいる。

「夢がなくなった」と嘆くこともできるが、
むしろ「しっかり物を見るようになった」
と好意的な解釈をしてあげたい。
課長どまりで定年を迎え、気がついたら、
もう人生も終点に近いというのが
大半の人々の真実の姿だからである。





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2012年3月8日(金)

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