死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第96回
増える熟年夫婦の離婚

もっとも、新しい社会条件が揃ってきても、
頭の古い人たちは古い世界に住んだまま、
その風俗習慣も信条もそう簡単には変えないから、
年配の人たちが受ける影響は
そんなに大きくないかもしれない。

それに引き比べて、若い人は、
今までの風俗習慣がまだそれほど頭の中に定着していないから、
クレジットでもサラリーローンでも
若い人の方がすぐ食いつく。

そのデンで行くと、離婚の風潮も、
若い人の方が感染率は高く、
最近は結婚したかと思ったら、もう離婚というのも珍しくない。

一番早いのでは、新婚旅行から帰ってきたら、
「ではさよなら」というのがあるそうだが、
まだ子供の生まれていない男と女の間だけのことなら、
「合わせものは離れもの」と言われても
さほど深刻なことではない。

精神的なツョックだって、
それぞれ自分たちで処理すれば片のつくことだし、
将来もっと素晴らしい相手を見つけることだって
できないわけではない。

ところが、現在、アメリカを襲っている離婚の嵐は、
三十代、四十代、更には五十代の
働き盛りの男女を巻き込んでいる。
まだ独り立ちできていない、
親の愛を必要とする子供たちを巻き添えにする。

更には、もうこれで人生の大半は過ぎたし、
これからは老夫婦で余生を悠々と送りたいと思っている
老境近い人たちに突然、別れ話が持ち上がってくる。

この場合も、もちろん、
女性の側から持ち上がってくることが多く、
「お嫁さん」という職業には元来、定年はないのだが、
「あなたのような人の家政婦は辞めさせてほしい」
「これからは自分自身の人生を発見したい」
というセリフを聞かされる巡り合わせになる。

その時になって、「なぜだ」と驚いて見せたのでは、
平均寿命が延び、豊かになってすっかりこらえ性を失った社会に、
ただ一人取り残された「過去の人」
と笑われても仕方がないであろう。





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2012年3月13日(水)

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