世界大不況のゴングが鳴った 東南アジア経済危機はドル基軸通貨体制動揺の序章
通貨の目減りはバーツから始まった
(1997年11月8日執筆  『Voice』98年1月号発表)
いま、ならず者の投機資金がアジア中を駆けまわっている。少しでもスキがあると、現地通貨を売り浴びせたり、株を売り浴びせたりするので、地震でいえば、震度六とか、震度七とかいった激震がタイに始まって、マレーシア、フィリピン、インドネシアに波及し、ついに韓国、台湾、香港、日本までが連鎖反応を起すようになってしまった。
なにしろ貿易の決済に使われる通貨の千倍もの投機資金がその周辺に集まって為替変動の利ザヤを稼ごうと鵜の目鷹の目でチャンスを狙っているから、ちょっとでも国際収支のバランスを崩すような貿易上の変化の兆しがみえると、売りや買いが集中して実勢以上の激しい動きが生ずる。たとえば、タイやマレーシアでは、ここ七、八年あまり経済成長を見込んで、工業生産だけでなく、株や不動産への思惑資金がドッと流れ込んだが、投資が一巡してこれ以上の押し上げがきかなくなると、投機資金は落ち着きを失って逃げ腰になった。資金の流入が続いているあいだは、建設も続いているし、土地や株も値上がりをするから、景気もよいし、賃上げもあって、消費の上げ基調は続く。
しかし、投資が一巡して、その実績を問われるころになると、期待したような結果が必ずしも現われない。もともと商売は難しいものだから、予定どおりにいかないのは当り前のことだが、タイにしても、マレーシアにしても、日本の不景気があったり、中国の輸出攻勢があって、輸出が思うように伸びないので、国際収支に窮りが出てきた。
そうなると、株や土地の値上がりを見込んで流入していた投機資金はそわそわしはじめる。海外からの投資というと、聞こえはよいが、実際に工場建設をして物づくりに投じられる生産資本は別として、何とかファンドとか、生命保険会社や年金などいわゆる機関投資家の資金は、「産業の育成のために使われている」などというのは真っ赤な嘘で、要するに稼ぎのチャンスをめざして動きまわっているお金にすぎない。
なかでもキャピタル・ゲインを狙って世界中を動きまわるお金はその動き次第で一国の経済を大混乱におとしいれるばかりでなく、景気不景気を左右するほどの威力をもっている。これは、資本や物が地球的規模で自由に移動できるボーダーレスの時代の新しい経済現象の一つといってよいだろう。
たとえば、バブルに沸く日本より少し遅れて、タイに経済成長ブームが起った。日本と同じように土地も株も上げはじめた。私も友人に誘われてバンコクやチェンマイを見てまわったことがあるが、私自身はタイの土地にも株にも手を出さなかった。
一つにはタイ人の名義を借りないと、土地も株も買えないという法律的な規制があったからであるが、もう一つには経済の実力に比して土地の値上がりのスピードが速かったからである。その狂騰ぶりをみて心配になった私は友人たちにタイの土地を買うのを思いとどまるようにアドバイスをしたが、はたして土地の値上がりはまもなく頭打ちになり、急速に値下がりこそしなかったが、売買が止ってしまった。
幸いなことに、設備投資はまだ続いていたし、賃金も上昇して国民経済は拡大の方向に向っていたので、景気が後退する兆しはみえなかった。むしろ消費景気は相変らず続いていたので、自動車ローンが急激に拡大され、やがてその反動がくると、土地関連の焦げつきと自動車ローンの焦げつきのために店じまいになったファイナンス会社が五十八社にものぼった。
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