では勧進元のアメリカはどうなるのか。東アジアのあちらこちらに転移した癌細胞がひとたびアメリカに転移するようになったら、アメリカの株価ひとり安泰でおられるわけがない。すでにニューヨークの株式市場は高所恐怖症にかかって、ちょっと手が触れただけでも居ても立ってもいられないくらい揺れ動いている。だから、おそらく九七年末から九八年にかけてアジア諸国の後塵を拝することになるだろう。さきにも述べたように、アメリカでは、東京や香港のような不動産ブームはなかったので、不動産の大暴落は考えられないが、株価に火がつくと、アジアの株式市場からお金が逃げ出したように、ニューヨークの株式市場からもお金が逃げ出そうとする。大火事のときは逃げ損って生命を失う者もあれば、火事場ドロボーも出現する。株の場合はジャイアントが一寸法師にされる動きだから、咋日までジャイアントだった者がすべて一寸法師になってしまう。
ニューヨークの株がどのへんまで下がるかは結果をみなければ何ともいえないが、いっぺんで底値まで転げ落ちるようなかたちではなくて、おそらく落ちては小枝でとまり、少し姿勢をとり直してはまた転げ落ちるかたちになるだろう。アメリカのファンダメンタルズは悪くないという強気筋が買い支えに出るが、いったん株が下げはじめると、驚きあわてた投げ売りが力を得る。投げ売りが始まると、売り方にまわった投機資金がまたうしろから押すから、雪崩を打ってさらに落ちる。日本のように株の持ち合いがなく、売りに歯止めがきかない分だけニューヨークの谷は深いとみなければなるまい。
かりにそういうことにでもなれば、銀行や証券会社が、集めた投資信託の解約に応ずるためにもっと株を売らなければならなくなる。東南アジアの国々のあとを追って、株価が高値の半分ということになれば、年金の支払いに支障を来すこともないとはいえない。中小銀行の倒産くらいですめばいいが、大銀行がピンチに追い込まれることにでもなれば、政府が救済に乗り出さないわけにはいかない。
アメリカのような基軸通貨の発行元で政府が債務の肩代りをするということは、もっと多くのドル紙幣を刷って、すでにドルをもっている人びとに共同して負担してもらうことにほかならない。バーツやルピアの場合はバーツやルピアの国の人たちだけが負担させられるが、ドルの場合はアメリカ人の負債と世界中のドルをもっている人たちに負担してもらうことになる。こういう不公平が誰の目にも明らかになってくれば、基軸通貨としてのドルのあり方が再検討されるときがくる。その半面、世界中の人びとがドルの動きにふりまわされているなかで、いざとなると、皆、ドルというシェルターのなかに逃げ込もうとするのだから、ドルの呪縛からそう簡単に逃れられるとは、とても思えないが。
(一九九七年十一月八日執筆、『Voice』九八年一月号発表)
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