NIESの国々ではシンガポールが真っ先に影響を受けたが、台湾も株が三〇%も暴落し、台湾元は一ドル二十八元から三十一元まで下げた。香港はペッグ制を死守することを表明し、香港ドル売りに買い向うために多額のドルを使い、一応は目的を達したけれども、アジア中の通貨が次々と平価の切り下げをしているなかでかたくなにペッグ制を守っても、対外貿易で不利な立場に陥るだけだから、最後にペッグ制を離れることも考えられる。したがって経済力によって程度の差はあるが、今回の通貨不安はドルの病気から起ったものであるから、ショックは全世界に及ぶとみて間違いない。
では、アジアから逃げ帰ったドルはニューヨークの株式市場へ戻って株価を押し上げる役割を果すことになるのだろうか。お金が余るようになったらインフレになる、というのが貨幣数量説の理論だが、物のあり余る時代になると、要らない物は誰も買わないのだから、いくらお金がふえても日用品の値上がりには必ずしもつながらない。また株が上がるかどうかは産業界の儲けがふえるかどうかに左右されるものであるから、上がると予測できれば買いが入るし、下がると思えば売りが出る。アジアの株の値下がりが、アメリカの対アジア貿易やアジア投資の業績に不利に働くと思えば、ニューヨーク市場でも株が売られ、ニューヨークに戻った資金もニューヨーク市場から逃げ出そうとするだろう。
株式市場から逃げ出したお金は債券市場にいくといわれているが、株が下がるときは必ず逃げ遅れる者が出る。そういうお金は株の下がった分だけ財産価値を失う。もともと値打ちがあるといっても、相場が上がって高い値段で取引されていたというだけのことで、それが下がると、資産の評価はおちるが物そのものがなくなってしまうわけではない。
世界を駆けまわっている投機資金にしても、ふえることをめざして機敏に動いているけれども、事、志と違って資産の評価のおちるときは、ジャイアントが一寸法師になってしまうことに変りはない。したがって不良少年が生れ故郷に帰ったら、心を入れ替えて模範少年になると考えるよりも、一寸法師にされまいと逃げまわっているうちに、だんだん一寸法師になっていく運命が待っているとみたほうが正しいだろう。
つまり通貨の切り下げをすれば、本来なら通貨の値打ちがなくなった分だけ、不動産にしても物の値段にしても値上がりをしてインフレになりそうなものだが、実際にインフレどころか、逆にデフレになって財産価値が縮んでしまう。現金が姿を消して金利も上がるから、商売がまわらなくなって、やりくりがつかなくなってしまう。金繰りのために不動産を売りに出しても、お金がないし、もっと下がるだろうと思うと、お金をもっている人でも買ってくれなくなる。上がるのは、輸入品のコストくらいなものであるが、それも買ってくれる人がいなければ、安くまけて売るか、輸入を控えるよりほかなくなる。
そうなると、日本のように生産事業が技術や資本を温存できている国では、不動産業や不良債権を抱えた金融機関が倒産したり整理統合される程度ですみ、産業界全休は何とか再起を図ることができる。ところが、東南アジアにいくと、新しく興った生産事業の基礎まで根こそぎやられる可能性があり、その修復にはかなりの時間がかかろう。
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