そうした変化がアメリカの銀行や投資信託の業績に反映されることはまず避けられない。おそらく九八年の春から夏にかけて次第に表面化するだろうが、日本の場合は民間銀行の融資が韓国に対して二百五十億ドルほど、インドネシアに対して二百四十億ドルほどあるといわれている。アメリカと違って日本の銀行は国内で巨額の不良債権を抱え、その償却に追われてヘトヘトになっているさなかだから、ここで東南アジア全体でさらに十兆円にも及ぶ焦げつきが出るとなると、弱り目に崇り目というよりほかないだろう。景気の回復はいちだんと遠のき、二兆円の減税や三十兆円の政府保証ていどでは容易に立ち直れないのではないか。
その点、アメリカはいまのところアジアの通貨不安の被害が直接、自分たちのところまで及んでいないので、涼しい顔をしておられるが、通貨不安は連鎖反応を起すものだから、どこかアメリカに近いところに飛び火してやっと事の重大さに気づくのではないか。
前章の「世界大不況のゴングが鳴った」を執筆した時点では、もしかしたら中南米のどこかの国で似たようなことが起るのではないか、それはブラジルではないか、メキシコではないか、とさまざまに憶測したが、実際に起ったのを見ると同じアジア圏内のインドネシアであり、ルピアが再び大きく揺さぶられることになった。経済的な無策もさることながら、スハルト大統領の後継者問題で政治不安が加わると、ルピアが最悪の状熊に落ち込む可能性もないとはいえない。
いまのところ、中南米の諸国は小康を得ているようだが、アメリカのすぐお隣のカナディアン・ドルが安値を更新しているから、あるいは、思いがけない突発事件からアメリカの尻に火がつくことがあるかもしれない。
アジアに対して認識のあまりないアメリカでは「東南アジアの通貨不安から受ける影響は軽微」とタカをくくっている。だから日本が内需を拡大して輸出よりも国内消費に力を入れれば、アジアの問題は少ないと考えているようだが、通貨不安に陥ったアジアの国々で、倒産する企業は倒産し、買収される企業は買収されて一段落つけば、通貨の安くなった分だけ輸出には有利になると私は見ている。したがって輸出にドライブがかかって貿易が黒字化する時期は意外に早いだろう。
その場合の主たる輸出先は当然、アメリカだから、アメリカの輸入はさらにいちだんと増える。反対に、通貨の切り下がった国への輸出は減少するし、値段も下がる。石油のような生活必需品でさえ世界的な消費減を見込んで原油の国際価格が短期間に二〇%も下がってしまった。
アメリカからアジアヘの輸出はアメリカの全輸出の三〇%を占めているが、自動車はもちろんのこと、ポリプロピレンのような石油化学製品でも輸出が半減したうえに、価格も半分に値下がりして採算点を割っている。アジアからの繊維製品と雑貨の輸入価格は安くなるだろうが、アメリカからの完成品や原料の輸出はこれまた減少するから、アメリカのハイテク関連産業や石油産業がその影響を受けないわけがない。
そうしたアジア貿易の不振がニューヨークに上場されている企業の業績に出てくれば、株価を高値に維持することは難しくなり、やがてニューヨークの株式市場がアジア市場のあとを追うことが避けられなくなる。
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