大波かぶっても中国・香港が健在な理由
(1998年1月30日執筆  『Voice』98年4月号発表)
通貨不安の大波をかぶっていることでは、日本も香港も台湾も例外ではないが、これらの地域と債務で首がまわらなくなっている地域とでは、立場も違うし被害の受け方も違う。まず香港は米ドルのいわゆるペッグ制を維持することに懸命で、そのために金利が上がり、株価も暴落し、不動産売買も不振に陥ってしまった。ほんとうのことをいうと、ペッグ制をどうしても維持しなければならない理由があるわけではない。通貨不安はアジアの他の地域から押し寄せてきたもので、香港に内在的な弱点があってのことではないからである。
仮に一ドル七・七五香港ドルがシンガポールのように二〇%ほど平価切り下げをして九ドル台になったとしても、香港の貿易にはほとんど支障をきたさない。もともと香港が扱っている商品はほとんどが他の地域の産物で、レートが高くなれば、高く表示すればよいだけのことだし、レートが下がれば、同じように低く表示すればよい性質のものだからである。
もちろん、平価の切り下げをやれば、香港ドルで表示される香港株や香港の不動産の米ドル換算価格は下落する。しかし、ペッグ制に固執してレートを変えなくとも、香港ドルを米ドルに換える動きに応じて、特区内の金利を上げれば、株価も不動産価格も同じように下落する。それでもペッグ制を維持しようとするのは、一つには九七年七月の香港返還に際して「五十年不変」の手形を振り出した手前、たとえ外部から押しよせた圧力であっても、それに対して不動であることを内外に示したいという意地からである。
さらにそういう意地を張り通すだけの実力をもっているということでもある。いまや香港は日本・中国に次いで外貨準備高では九百六十億ドルという台湾を抜いて世界三番目の地位を占めている。それだけでなく、もともと香港は国際金融の中心地で、香港の銀行の扱っている資金のうち、香港ドルは三分の一にすぎず、残り三分の二は米ドルを中心とした外国マネーである。だから預金者や融資先の要請に対応することには慣れており、香港ドルを売って米ドルに換える動きが盛んになれば、香港ドルの金利を上げてその流出を防ごうとする。
しかし、香港ドルはもともと米ドルを担保にして発行されているものであるから、支払う米ドルに不足することはないし、香港の人たちが香港ドルを米ドルに換えても、銀行に預けてあるお金が香港ドルから米ドルに変っただけのことで、銀行業務がピンチに陥ってしまうわけではない。
香港特区内の投資はほとんどが不動産に集中しているし、そのための資金は香港ドルで融資を受けているから、香港ドルの金利が九%から十二%とか、十三%まで上昇すれば、ローンを借りて家を買う人は減少するし、逆に開発費用はかさむから、不動産開発業者は減収減益に見舞われる。すると株価が下がるから、アメリカやヨーロッパのファンドで、香港株を買っていた連中が株を売る。その代金が香港から引き揚げることはあるが、香港から引き払う資金は外来資金だけであって、それが香港政府の屋台骨を揺がすことにはならないのである。
げんに、私や私の周囲の人間でも、香港ドルでも多少の銀行預金はもっているが、香港ドルの将来に不安を抱いてとっくの昔に預金の大半を米ドルに換えて同じ銀行の米ドル口座につけ替えている。おそらく香港の大半の人たちがそうしていると思うが、それによって香港の銀行が倒産に追い込まれると思っている人はいないし、銀行にしてみても、もともと三分の二は米ドルを動かしていたのだから、扱う香港ドルが少し減って米ドルが少し増えただけのことにすぎない。日本の銀行のように不良債権でいつ倒産するかわからないと預金者が心配するような状態にはないのである。
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