変化が来るとすれば、それは外から来る。香港の銀行のなかには東南アジアの各国と関係の深いものもある。フィリピンとか、インドネシアとか、タイの有力華僑が逆に香港に来て設立した銀行もある。それらの銀行が東南アジアヘの融資を焦げつかせる可能性はあるわけで、少しでもそういう気配が見えると株価がそれに反応する。
しかし、香港の銀行は日本の銀行のように政府の手厚い庇護を受けていないので、経営にはきわめて慎重で、融資する場合も十分な担保を取っていることが多いので、地価が三分の一にも、五分の一にも下がるようなことがなければ、潰滅的な打撃を受けることはほとんどない。
香港の金融関連で、東南アジアの通貨不安の影響を受けたのはむしろ証券会社であろう。昨年暮に倒産したペレグレンは、中国株の上場発行にかかわって急速に成長し、一時は東南アジアで一位を誇る証券ブローカーとして騎虎の勢いにあった。それがスハルト一族とかかわりのあるインドネシアのタクシー会社の上場を一手に引き受けて、約束手形を振り出したところで、通貨不安が表面化し、支払い不能におちいってしまった。続いて地元証券会社のC・A・パシフィックが倒産し、これが顧客から預かった株券を担保にして借金をしていることが表に出たので、投資家が大挙して香港政府まで押しかけて行くという騒ぎにまで発展した。
株価の急落、わけても東南アジアの株価の急落と、現地通貨の急落というアクシデントに見舞われたバクチ的性格の強い証券会社にはそうした経営の破綻が見られるが、香港企業が大量の米ドルの融資を受けているわけではないし、むしろ逆に融資したお金を焦げつかせているほうだし、香港自体が豊富な外貨準備を保有しているので、守ろうと思えばペッグ制を守り抜くこともできる立場にある。したがって今回の東南アジアの軒並みの通貨切り下げによって大きな影響を受けるものがあるとすれば、それは香港ドルよりもむしろ人民元のほうであろう。
さきにも述べたように、中国大陸は三千二百億ドルにものぼるおそらく世界最大の外貨受け入れ国であるが、大半が資本という名の長期資金だし、借入金も資本参加をした外資が保証して受け入れ、設備投資の一部とか、運転資金として使われている資金であるから、オイソレと引き揚げられる性質の外貨ではない。
そのうえ、貧乏貧乏とバカにされ、外貨がいまにも底をつくと見られていた中国が、この五、六年間に受け入れた投資資金と、年々急増した輸出黒字によって千四百億ドルからの外貨準備を擁するようになったので、通貨不安の心配がないだけでなく、対米ドル為替レートがわずかながらも逆に元高というポジションにある。
そうした意味では、人民元は江沢民や朱鎔基がしばしば言及しているように、平価切り下げをやらないですむ立場にあるが、東南アジアの国々や韓国が半分とか四分の一に切り下がったとすると、国際競争で劣勢におちいることが考えられる。いまのところその分は生産の合理化によって吸収すると中国は言明しているが、はたして乗り切れるかどうかは九八年から九九年にかけての貿易数字の動向を見ないと何ともいえない。
もしあまりにも輸出が減少するようなことが起れば、人民元の切り下げがないとはいえないが、少なくとも九八年の前半までは約束が守られるであろう。それというのも、中国が他の東南アジアの国々に倣って通貨の切り下げをやれば、さらにいちだんの通貨安を誘って東南アジア全体が収拾のつかない混乱におちいることが考えられるからである。
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