安売りでピンチは打破できない
(1998年5月11日執筆  『Voice』98年7月号発表)
物が売れなくなったら、物をつくっているメーカーも困るが、物を売っている流通業者も同じように困る。だから、メーカーは売れる商品をつくろうと努力するし、流通業者は売れない商品でもなんとかして売ろうと努力をする。
売れない商品を売るために、流通業者が本能的に考えることは安売りをすることである。とりわけ足の鈍くなった商品を捌くためにはバーゲンセールをやればよいというのはデパートやスーパーの常識である。たしかに売れ残った商品でもバーゲンをかければ、よく売れるようになる。
しかし、バーゲンでお客を集めるためには、バーゲンが特定期間だけに限られていてすぐに終ることが大前提である。万が一にも、バーゲンがダラダラと続こうものなら、デパートでもスーパーでも、お客に見限られて人が寄りつかなくなってしまう。
つまり安売りがお客を魅きつけるためには二つの条件のうちの少なくとも一つが充たされていなければならない。一つは他の業者が安売りをしていないときに安売りをすることである。もう一つはインフレで物価が上昇しているときに、それに抗して敢えて物を安くお客に提供することである。
前者は草創期のダイエーあたりが主婦の店と称して商店街のなかで安売りをかけた時期であり、(一)問屋を通さないでメーカーからじかに大量に仕入れて安く売る(二)建物やインテリアなどの間接経費にお金をかけない。(三)宣伝広告費を使わずに、立て看板やせいぜい折り込み広告で「良い商品をドンドン安く」売ることによって客層を拡げていくことである。そうすることによって商店街だろうと、デパートだろうと、同じ商品を扱っていた同業者のお客をスーパーがいともたやすく奪いとることができたのである。
あと一つは物価上昇のきびしい時代に安売りをかけることである。安く物が買えれば、お客がいくらでも集まってくる。その代りインフレの激しいときは、物を売って回収したお金で次の仕入れができなくなるおそれがある。戦後の日本では、石油ショックのときくらいしかインフレを実感できた時期はなかったが、東南アジアのように政情不安があったり暴動があって物価上昇の心配が起ると、民衆がドッとスーパーに押し寄せてくる。
また中南米のような常時インフレの激しいところでは、スーパーやデパートに行っても商品に値段が貼られていない。朝と晩とでは値段が違うからである。安売りをするのはいいけれど、うっかり値段の調整を間違えると、売った代金で次の仕入れができなくなって店じまいをしなければならなくなる。そういうところで安売りをすれば間違いなくお客にありがたがられる。
それに対して在庫を一掃するために商品の安売りをするのなら別だが、物のあまっているところで不況を打開するために安売りをすると、その返り血を浴びて商売が成り立たなくなる。四、五年前、ダイエーの中内功さんが百円輸入ビールの安売りを皮切りに価格破壊を宣言し、「物価を半分にしてみせる」と豪語したとき、私は「安売りは成り立たない。おそらく物価が半分になる前にダイエーがおかしくなるだろう」と公開の席上で自分の意見を述べたし、また文章にも書いた。
というのも、いくらでも製品の供給が可能な時代に安売りをすると、はじめはドッとお客が集まるが、お客をとられまいとして同業者も値段を下げるから、安値が定着して結局、値下げをした分だけ単品あたりの利益が減ってしまうからである。
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