次の成長産業が育つまでのつなぎが必要
(1998年5月11日執筆  『Voice』98年7月号発表)
人々が物を買わなくなったら、物をつくったり販売したりする商売はあがったりだが、お金の使い道がまったくなくなってしまうわけではない。いまのところ、景気がさらにおちこむことをおそれて、お金を使わずにそのまま貯め込んでいる人が多いが、人々がそういうことをすると、生産がますます減少して景気はさらに悪化する。だから、どんな形にせよ、またどんなことに使うにせよ、とにかくお金を使わせて、お金がうまくまわるようにしなければならない。
アメリカが「内需の拡大をせよ」と日本政府に迫っているのは、日本が生産して輸出に向けているバイタリティを国内向けに使ってほしいということであるが、いくらアメリカが口を酸っぱくしても、輸出向けにつくっている製品を国内向けに切り替えることはできない。国内市場はすでに飽和状態に達していて、売りたくとも物が売れる状態にないからである。
げんに円安もあって輸出が好調で、年間一千億ドルにのぼる貿易黒字が発生している。
それなのに景気は逆におちこんでいる。つまり輸出がどんなに好調でも、それによって景気のおちこみを挽回できないということである。そして、物を買わなくなった日本で輸入をふやすことは実際問題としてできない相談だから、貿易のインバランスを解決するためには海外投資をふやすか、日本人が海外に行って気前よくお金を使うかのどちらかである。
日本銀行の米債保有高もひところに比べてうんとふえたが、日本の金利がゼロに近いおかげで国内預金が海外預金や海外投資にシフトされる機会がふえて、アメリカ人の過剰消費を日本人がお金を貸して支える形が続いている。アメリカの株が大暴落をしてアメリカ経済がピンチにおちいり、海外から輸入しても誰も買う者がいないということにでもならないかぎり、日本の対米輸出が減少する可能性はないだろう。
とすれば、日本の景気のおちこみを挽回する方法は貿易黒字と切り離して考える必要がある。バブルが崩壊したあと政府が打ち出した景気対策は、定石に従って公共投資で民需の減少分をカバーすることであった。しかし不動産と株式の下落を放置しておいたために、資産デフレによって大量の不良債権が発生し、後手後手にまわった景気対策はすべて無効に終ってしまった。最近になって政府が大型減税を打ち出したが、三兆円が六兆円になろうと、また臨時減税が恒久減税に変ろうが、国民が先行きに不安を抱いているかぎり、減税されてふえた所得はその大半がそっくり貯蓄にまわされると考えてよいだろう。まして成熟化社会になってお金が物を買うのに使われないとすれば、アメリカ政府が日本に望んでいるような内容につながらないことは確実である。
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