家内を見ると、孫や嫁へのお土産を買うのはわかるが、自分のコートを二枚買っただけで、あとは有名な作家のつくった人形とか、清朝時代の陶人形とか、要らない物ばかり買っている。要らない物でも何か買わずにはいられないのが女性の心理と見えて、デパートも専門店も女性でもっているんだなあと改めて考えさせられた。それにしても何一つ買わずに手ぶらで帰ってきたことにわれながら驚いている。最初、それは自分が年をとって購買意欲を失ったせいだろうかと思った。あるいは人より早くお金を使うようになって、人より早く欲しい物を一通り手に入れてしまったからだろうかとも思いなおしてみた。
そのどちらも間違っているとはいえない。けれども、どうもそれだけではなさそうだ。
年をとると、だんだん好奇心がなくなって、欲しい物がなくなってしまう。着る物にしても、タンスのなかに山ほどあるのに、同じ物を二日間もぶっ続けて着たりしている。いつの間にか身につける洋服がきまってしまい、安物は着ないし、高価な物でも気に入らないと一回袖を通しただけで着なくなる。それではいけないと思って、毎日、必ず違う服に着替えるように心がけているが、同じことが食べ物についてもいえる。うっかりすると昼食べた残り物を夜食べる人が多いが、私はけっしてそれをやらない。そうしないことによって老齢化に抵抗するのである。
また私にはコレクションの趣味はないが、若いときから日常使う食器に一流品を使う趣味をもっている。だから欧州に行くたびに、気に入った陶磁器があると、万金を惜しまず奮発して買った。しかし、もう目新しいものはなくなったし、家中の食器棚が溢れていることを考えたら、もうこれ以上買う気がしなくなってしまった。物を買わなくなったのは私自身の特殊事情によるものかもしれないが、もしそうであればお客はまだたくさんいるから、日本国中のデパートやスーパーの経営者はまだまだ枕を高くして寝ていられる。
しかし、私の周囲を見ても私のような心境になる人はどうやら私一人だけではないらしい。私と一緒に旅行をしている仲間も、孫への土産物を入れるために新しいトランクを旅先で買った人がいたが、それ以外はロマネ・コンティやペトリウスのワインを買う人はあっても、昔のようにブランド商品を買いまくる人は一人もいなくなってしまった。日本で手に入らないチーズやオリーヴ油に手を出す人はあっても、シャネルやグッチの店に飛び込む人はいなくなってしまった。
私たちは個人ゼイタク旅行のパイオニアだと思うが、私たちのあとを追って旅行ブームが起った。私たちがショッピングをしまくったあとに、買い物ツアーがはじまった。もし私たちが先陣をあずかっているだけで、私たちの通ったあとを多くの人たちが通るものだとしたら、そのうちに誰もが買い物をしなくなる。
すでにその兆候は見えている。デパートだけでなく、スーパーの売上げも年々、前年度を下回るようになった。売上げが予想に反して悪かったのは暖冬が続いたためとか、昨年は消費税率の引き上げを控えて駆け込み需要があったためとかさまざまの言い訳が罷り通っている。それを聞いていると流通業もついに言い訳産業の仲間入りをして、業績の芳しくないのを天候や政策のせいにするようになったことがわかる。
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