ところが、蹟きの石は随所に、というよりすぐ目の前にも転がっている。東南アジアや韓国の企業がピンチに追い込まれてお金が返せなくなっても、またそれぞれの国で輸入が激減しても、それはたちまちアメリカにはねかえって株式市場に異変を起す。もともとそういうことになったのも、一つにはボーダーレスになって、お金も人も物も自由に行き来するようになったからだし、もう一つ重要なことは、そうした国際化の前提のもとで、アメリカが自国で採算に合わなくなった生産事業を思い切りよく国内から国外へ移してしまったからである。
アメリカ人は日本のリストラがなかなか進まないことを露骨に批判しているけれども、アメリカのリストラとは、倒産する銀行は容赦なく倒産させ、採算に合わなくなった企業や回復する見込みのない企業はさっさと倒産に追い込んだり、清算してしまうことをいう。
そのために不採算企業は国内から姿を消し、お金の儲かる企業だけが生き残ったが、その代り雑貨や繊維をはじめ、外国で生産したほうが安上がりな分野はすべて外国からの輸入にたよるようになった。そのために貿易赤字が定着してしまったのである。
貿易収支が赤字になれば、対外債務は年々増える。借金が増えてもドルに対する信仰が続くかぎりアメリカ経済は馬脚を現わさないですむ。
しかし、アメリカで運用されている外国の資金が大量に引き揚げたり、アメリカの株式市場が大暴落してドル安になれば、アメリカに集まった大量の投機資金はたちまち逆の方向に向って走りだす。そういうときは、アメリカ国内も不景気になるし、ドルも一挙に安くなるから海外からの輸入は減少して世界中がその影響を受ける。節約ムードがアメリカを支配するようになり、いま日本で起っているようなことがアメリカにも起る可能性が出てくる。
私にいわせれば、東南アジアの国々で発生した通貨不安もじつはアメリカの海外戦略がもたらしたものであり、やがてそれが津波となってニューヨークを襲うと見ている。だからドルなら安全だとはとても思えないし、アメリカ式のリストラが正しいとも思えない。
しかし、日本はここまで追い詰められても銀行を思い切って切って捨てたほうがよいと思っている人はほとんどいない。いやいやながらも、息子の不始末の尻ぬぐいをやらされるような気持だから、世論さえそれを許せば、まず親がその肩代りをして一応は急場を救い、あとはゆっくり時間をかけてなるべく被害が少なくてすむような対策を考える。
ただし、そのためにはさしあたり百兆円は覚悟しなければならないから、そのやりくりについてまず国民のコンセンサスを得る必要があろう。仮にそういう形で不良債権の整理ができたとしても、景気の回復は私たちがいままで考えてきたよりはずっと難しい。日本国内が成熟社会化して、物が売れなくなったということもあるが、日本国内だけでなく、外国との取引のことも考慮に入れなければならないからである。
東南アジアについていえば、どこも通貨不安で、外国から物を買わなくなってしまった。日本からの輸出も減ったが、中国もその影響をもろに受けている。そのために当初目標であった本年の八パーセント成長率も達成が困難と見られている。
ここへきて、アメリカの株が大暴落をしてアメリカ人が購買力を失うと、アメリカの輸入に大異変が起る。またアジアの通貨不安がめぐりめぐってアメリカに及びドル安になると、アメリカまで輸入品が国産品より割高になるということも考えられる。おそらくアメリカに異変が起るときは、株安とドル安が同時に起るだろうから、日本も中国も輸出の道を断たれて戦後最大のピンチに見舞われることになろう。
←前ページへ 次ページへ→

目次へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ