日本にしても、中国にしても、アメリカをたよりにする経済体制からの方向転換を余儀なくされることははっきりしている。ならば円安だろうと、円高だろうと、天下の大勢に影響はないじゃないかと思うかもしれない。円安が続けば、それだけ稼ぎがふえて結構な話だと内心思っている人もいるにちがいない。しかし、円安が進む過程で日本人は盛んに円を売ってドルに移っている。ドル預金やアメリカの投資信託のほうが金利や配当が有利だといってアメリカから盛んに誘いがかかっている。
現に日本でアメリカの投信が何千億円単位で売れている。そうした動きがほぼ飽和点に達したところで、アメリカの株が大暴落したとする。一ドル百四、五十円でドルに移った資金が株やドルの大暴落にあえば、半分あるいはそれ以下になって戻ってくることが考えられる。バブルの最中は、アメリカでロックフェラー・センターやティファニーやバンク・オブ・アメリカのビルを買った日本の大企業が身ぐるみ剥がれて大損をした。もう一回、大変動が来れば、その二の舞いとなる可能性は大いにありうると思わなければならない。
私なら、この時点でアメリカにはお金をもっていかない。投資をするならアジアでやる。為替のレートも一ドル百円前後に誘導する。そのほうが怪我も少ないし、日本企業のアジア投資にも有利になる。いつまでも日本でつくった物を外国に売りに行くことを考えずに、資本と技術を輸出する国へと発想を変える。現に日本はそういうやり方に変らなければやっていけないところまで来てしまった。
そういう資本と技術の輸出国にとってどこが有利な投資先かというと、これから国内が大きな市場として期待できる発展途上国、なかでもすでに経済成長の基礎条件が整った地域にきまっている。
アジアの通貨不安が一巡して最終的にアメリカにまで及ぶことが避けられないとすれば、六十年に一度、世界中を襲う大恐慌はまだ終っているとはいえない。おそらく日本も再建途次でもう一度、大地震に見舞われることになろう。だから個人や企業としては、「もう大丈夫だ。気前よくお金を使おうじゃないか」ということにはまだなれそうもない。
そう思っている人たちに、「縮こまってばかりいるな。もっとお金を使って国の立て直しに積極的に協力してください」というのが政府の言い分になるが、効果のほどは知れているとしても、はっきり方向づけをしてかなり強引にやらないと然るべき効果は期待できないだろう。
しかし、もう一ぺん大きなショックがあったとしても、それを乗り越えれば、日本も中国もアメリカの市場をあてにしてはいられなくなる。アメリカが物を買ってくれるだけの余力を失えば、アジア中が別の生きる道を探さなければならなくなる。それは間違いなくアジア自身のマーケットということになろう。日本はアジアの国々にとって、アメリカに次ぐ大きなマーケットだが、その他のアジアのマーケットは未来の巨大なマーケットである。お金をもっていないマーケットに物を買ってもらおうと思えばまずお金をつくる方法から教えなければならない。
気の遠くなるような話だが、日本人には自分の国でかつてそういうマーケットを育て上げてきた実績がある。それを日本の国の外へもっていって、もっと大がかりにやる時代になったのである。昔に戻ることを考えるより、新しいメシのタネを探してグローバルな展開をめざすべきである。

(一九九八年八月三日執筆、『Voice』九八年十月号発表)

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