国際化が進むといっても、ヨーロッパのように自分らの文化のあるところでは、アメリカ式経営の割り込む余地はそんなに大きくはないのである。そういった意味では、IMFが資金援助の条件として持ち出した産業界の自由化は必ずどこかで壁にぶつかって、必ずしもアメリカが無意識のうちに目指している金融帝国主義の実現には至らないと思う。
むしろそうなる以前に世界中をなめつくした通貨不安、金融不安が猛烈な津波になってアメリカに逆上陸する。アメリカで八年も続いた好況は、ドルの濫発によってもたらされた資産インフレが惹き起したものだから、借金の上に借金を重ねて積み上げられたものである。
たとえば、株式市場の最大の株主は年金だが、年金が株を買っているだけでなく、年金を納めている人たちも、自分たちの積み立てた年金を担保にカネを借りて株を買っている。無数にある投資信託は一般から資金を集めて運用しているが、利廻りの高いロシアやブラジルなどの国債や株にも手を出す。それらの国債や株を担保に入れて銀行から借金をし、その借金でまた国債や株を買い入れている。
つい最近、ルーブルの大暴落で金融危機に見舞われたロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)を見ても、四十数億ドルの基金に対して千二百億ドルに及ぶ借入金を運用して高収益を上げてきたが、一歩間違えたら、全財産を失うだけでなく、担保に入れた債券や株がただの紙屑になってしまうおそれがある。また金利の安い日本円を借りてドルに換えて資金運用をしていたタイガー・マネジメントは円が一日で十一円急騰した日にあわてて百億ドルもの円を買い戻して二十億ドルもの損失を出したという。
そういう無理に無理を重ねた借金によって押し上げられたのがニューヨークの株価である。どこかで何かのきっかけで、アメリカ経済に業績悪化のかげがさしたら、それをきっかけにガラが来ることは目に見えている。昨九七年の七月にはじまった東南アジアの通貨不安はいわばその最初の兆候であって、それはドルによって築かれた世界的な経済秩序の崩壊のはじまりと見るべき性質のものである。
先ず東南アジアや韓国で通貨不安が起れば、その地域へのアメリカの輸出企業は業績悪化に見舞われる。銀行や基金はそれなりの打撃は蒙るが、本体のアメリカが順調な間はそれをカバーできるから、すぐには業績悪化にはつながらない。
しかし、通貨不安は世界的なものだから、東南アジアからはじまってロシア、中南米まで行くと、カネを動かしてメシのタネにしているアメリカにとって、もはや逃げ場がなくなってしまう。金融株中心に株価が下がり、それが株式市場からの資金引き揚げにまでつながると、金融不安はアジアやロシアのことだけではなくなって、アメリカ自体の出来事になってしまうのである。
アメリカは日本政府の対策をじれったがっているが、日本で起ったような株の大暴落がアメリカにも起ったら、どうなるのだろうか。先ずはっきりしていることは、アメリカ人の財産がいまの半分か、物によっては三分の一から十分の一まで減ってしまう。財産が減ると、皆が大損をする。
経済に明るくない人は誰かが大損をしたら、誰かが大儲けをしたのではないかと首をかしげるが、儲けたといっても、持っている財産が値上がりをして三倍にも五倍にも評価されているというだけのことである。反対に損をしたといっても、持っている財産の評価が下がったというだけのことである。不動産も株券もべつに縮んでしまったわけではないのである。
しかし、財産が減ったというだけのことで人々のお金の使い方まで変ってしまうから、産業界には大変動が起る。物が売れなくなれば、企業の採算が合わなくなるから、企業は規模を縮小し、従業員を解雇する。失業者がふえると社会不安を惹き起す。銀行は海外に投資に出かけるどころか、貸したお金の回収に追われるから、金融帝国主義の先陣を受け持つどころの騒ぎでなくなる。日本で一足先に起ったことはアメリカでも起るというのが私の見方である。
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