バブル処理で米国のお手並み拝見
(1998年10月9日執筆  『Voice』99年1月号発表)

いまやアメリカと日本は世界で一、二を争う経済大国であるが、両者の間にはいくつかの大きな違いがある。アメリカは世界の基軸通貨であるドルの発行権を握っているが、世界一の債務国である。
それに対して日本は世界一の債権国であるが、債権のかなりを国の内外で焦げつかせている。そのもとはといえば、アメリカが振り出したドルという手形の使い方を誤って日本国内で資産インフレを惹き起し、空前のバブルを発生させたからである。しかし、この手形はまだ引きおとされていないから、清算はまだ終っていない。
次にドルの濫発によってもたらされた資産インフレはドルをがっちり貯め込んだ日本では土地と株の双方に及んだが、アメリカでは株式市場にだけ集中している。それというのも、土地神話のある日本と違って、アメリカ人は財産としての土地にはさほどこだわりがなく、しかも広大な土地に恵まれたアメリカでは利廻りで不動産の財産価値を算出する習慣があるので、利廻り採算を無視した土地の暴騰にブレーキがかかるからである。そのためにカネの大洪水になっても、日本のように大都会の土地が短期間に十倍に値上がりするようなことは起らなかった。
しかし、土地にまで及ばなかったからといって資産インフレが起らなかったわけではない。資産インフレは株や海外投資に集中したので、ニューヨークの株だけでなく、日本や香港や東南アジアの株まで大暴騰をした。その反動はアジア株の暴落からはじまったが、それがニューヨーク株にまで波及すれば、日本でダウが三万九千円から一万三千円までちょうど三分の一に下げたようなことが起らないとは限らない。
ドルを稼ぎすぎたために日本で起ったことは、ドルを新しい持ち主たちから集めてきてバクチに乗り出したアメリカのファンドや証券会社や銀行にも起ると考えなければならないのである。つまりカネがモノの取引を仲介する中立的な存在をオーバーして投機資金として世界中を暴れまわるようになったことが、本来なら一国内で起る災害を世界的規模にまで拡大してしまったのである。
その最大の被害者はドルを借りて返せなくなった韓国やインドネシアだと思う人があるかもしれないが、貸して返してもらえなくなった日本やアメリカあるいはヨーロッパの方が被害は甚大である。なかでも日本はアジアの国々への最大の債権者であると同時に、またアジアにおける最大のメーカーでもあるから、通貨不安によって二重に痛めつけられたことになる。しかし、世界中の株に投資したり、高利廻りの外国債を買ったアメリカのファンドが株の暴落にあったり、通貨の暴落にあって元金の回収ができなくなれば、日本の金融機関同様、身動きができなくなることに変りはないだろう。
アメリカの要人たちは日本政府の無能ぶりをくりかえしなじってきたが、アメリカがそうなった場合、はたしてどういう対策ができるのだろうか。景気の過熱化だけを極端に警戒してきたグリーンスパンは株価の行き過ぎにくりかえし警告を発してきたが、アジアの通貨不安によるニューヨークの株の下げを景気延命の手段として楽観的にとらえていたかに見える。
しかし、アメリカが本当に片時も目を離せないのはインフレよりもデフレの兆候であろう。通貨不安がロシアからブラジルに及ぶと、その方面の投資に従事していたアメリカのファンドに先ず破綻が生じて株価が下降線を辿りはじめた。

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