第2002回
ジーパン穿いてロールス・ロイスに乗る

私が学生の頃はジーパンなんてありませんでした。
ズボンの上からゲートルを巻いて、
銃を担ぐのが若者のいでたちでした。
戦後、詰襟や角帽が廃止されて、
石津謙介さんの発案による
VANのジャケットを身につけた大学生の姿は
それだけでとても解放的に見えたものです。

その後、いつの間にか、
ジーンズが当り前になって、ジーンズそのものが
若さのシンボルになってしまいました。
一度もジーンズを穿くチャンスもないままに、
私は中年を迎えましたが、
ロールス・ロイスに乗るようになってからも、
ジーンズは「失われた青春」のように
自分の頭にまつわりついて離れません。
と言って40代、50代になって、
今更ジーンズを穿いてみるだけの勇気もないし、
このまま人生は終わるのかと思っていましたが、
或る時、パリでまだ無名だった
ジョルジオ・アルマーニが
サントノーレの横丁にひらいた小さな店に
彼がデザインした
派手なジーンズがおいてあるのが目につきました。
よしと思って買おうとしたら、
同行したうちの娘に
「パパ、それだけはやめてね」ととめられて、
悔いを千載に残す思いをしました。

それでもまだあきらめきれずに、
或る時、とうとう渋谷の東急百貨店の特売場に
1500円のジーンズがぶらさがっているのを見て、
思い切って買って帰って見たら、
何と私の腰まわりにぴったりなのです。
人には見せられないけれど、
家にいる時ならいいだろうと思って
時々、穿いているうちに、
その時だけは学生時代に戻ったような
若々しい気分になります。
とうとう病こうじて、1枚また1枚と買いまして
タンスの中を覗くと、
いまやジーンズが山と積まれています。

或る時、プレジデント誌の
「私の宝物」という欄に出演をたのまれたので、
1500円のジーンズに
ユニクロの1800円のシャツを着て
ロールス・ロイスに乗る写眞をとってもらいました。
世界一高価な車に世界一安いカッコをして乗るのは
アンバランスな分だけ悪い気持はしません。
ならば80の坂をこえて
20代、30代と同じカッコをしたら、
どういうことになるのでしょうか。
おじんのおしゃれ雑誌をめくっているうちに
ちょっと試して見たくなったのです。


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