中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2199回
先進国にインフレ待望論は通用しません

デパートの食品売場に新しく起っている変化は
日本の国が成熟社会に入ったことを
私たちに教えてくれます。
一年間に人々が使うことのできるお金は
ほぼきまってしまいましたし、
それをどう使えば心の満足を得られるか
自分たちで考える時代になったのです。
使う物の量がふえずに質を問題にするのですから、
物がドンドン売れて行くわけではありません。
うっかりして消費者の心理を読み間違えて
売れない物を大量につくると、
滯貨の山になって大赤字を出す会社が続出します。
こういう環境を「デフレがとまった時代」と定義するには
ちょっと無理があります。

いま物価が少しあがっていますが、
それはエネルギーや素材の値上がりから来たものです。
中国やインドなど人口の多い地域で需要がふえると、
石油や石炭や鉄などの
資源にあたる部分が値上がりをします。
原料が不足で値上がりをすると、
先進国もその影響を受けます。
しかし、それはよその国の需要がふえたのであって、
充ち足りた国に新しい需要が起ったわけではありません。
むしろ値上がりによって消費を控える動きが出ますので、
逆効果を起す心配もあります。
それに対抗するために産業界ではコストを抑えて
売価を下げる動きに出ますから、
原料高の製品安という難題を抱え込みます。
成熟社会で原料高を起すと、
原料や素材を供給するメーカーは
一時的に高収益に恵まれますが、
産業界全体は遂に悪戦苦闘を強いられるようになるのです。

ですから成熟社会では
インフレが需要を喚起することにはなりません。
日本のような物の充ち足りた国で
新しい需要を喚起するためには
消費を刺戟する環境づくりと
新しい運動を起すことが必要なのです。
デパートで言えば地下食品売場と
上層部にある食堂とコーヒー・ショップ以外には
あまりお客が入っていません。
お客の入っていない階は商品を入れ替えるか、
お客を入れる運動を起すよりほかないところまで
追いつめられているのです。


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