中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第2790回
北京にいる人は素封を応援して下さい

三全公寓のイタリア料理に
イル・ミリオーネ(百万長者の家)という名をつけたのは
この私です。
マルコ・ポーロが尾羽打ち枯らして
オリエントの旅から故郷のベニスに帰ってきた時、
ベニスの人たちは
「あいつもとうとう失敗して帰ってきたか」
と思ったそうです。
ところが、ボロボロのオーバー・コートを脱いで、
裏地をほどいて中から取り出したのは
目のさめるようなたくさんの高価な宝石でした。
その一部を売っただけで
大金持ちの住む豪華な大邸宅を手に入れることができました。
人々はその豪邸に、イル・ミリオーネという名をつけた――
と物の本に書いてあります。

じゃ新しくひらくイタリア料理屋は
「イル・ミリオーネ」という名前にしようと私は提案しました。
でも中国人は外国名前ではなかなか馴染んでくれません。
中国名前をつけるとしたら何にしようか、
と私もあれこれ考えた末に、
史記に出てくる「素封」という言葉を思い出しました。
昔々は領土を持っているとか、爵位を持った人でないと、
諸侯の仲間に入りません。
そうした時代に唯一の例外だったのは、
商売をして大金持ちになり、
領土や爵位を持った人たちと匹敵する待遇を
世間から受けた人たちです。
人々はそういう人たちのことを素封家と呼びました。
素とは何もないという意味ですから、
皇帝から何も封じられないで立派に一家をなした人のことを
「素封家」と呼んだのです。

いまは勲章をもらった人とか、大臣に任じられた人よりは、
お金の払える立場になった人の方が世間から大事にされます。
そういう人たちの集まるところという意味で
「素封」と名づけたのですが、
中国のニュー・リッチはまだ駈け出しで
本格的なイタリア料理にすら馴染んでいませんので、
「何だ、このスパゲティ、まだナマじゃないか」
と怒鳴ってしまうのです。
そういう人たちの要求に応ずることは
本格的な修行をしたイル・ミリオーネの泊シェフにはできかねます。
その悩みを和らげてあげる意味でも、
皆さんの応援が期待されます。


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2007年10月30日(火)

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