| 第8回特許権の侵害が成立する場合とは?
 特許発明が項分け記載された構成要件(又は構成要素)の集合によって特定されることは
 既に述べました。
 では、このように表現された特許を
 侵害するとかしないとかをどのように判断するのでしょうか?
 原則論としては、特許発明の構成要件を全部実施した場合に侵害が成立します。
 すわなち、構成要件A、B、C、Dから構成される
 特許発明を侵害したといえるためには、
 A、B、C、Dの全部が実施される必要があります。
 逆にいえば、1つでも実施していない要件がある場合には
 侵害は成立しません
 (例外として、均等侵害とか間接侵害といった
 特殊なケースがありますが、それはまた別の機会に)。
 ですから、権利取得時には、
 なるべく少ない構成要件で済ませるに越したことはないのです。
 10も20も構成要件があると、
 相手もなかなか全部実施してくれませんから。
 以前勤務していた会社でこんなことがありました。知財部によく相談に来られる意識の高い設計者だったのですが、
 その彼がまた相談に見えて、
 現在開発中の製品の筐体(ケース)の設計を進めていくうちに、
 先行して出願された特許公開公報を見つけたといいます。
 特許請求の範囲に記載された発明と
 現在設計段階にある製品の特徴とを見比べてみますと、
 なるほど構成要件が全部実施されてしまうケースでした。
 まだ公開公報の段階でしたので、
 現在の記載内容が
 そのまま特許になると決まったわけではないのですが、
 彼は念のために設計変更しておきたいと主張しました。
 こうした対応は大変望ましいと思い、
 私も一緒になって検討しましたが、
 結局、特許請求の範囲に記載された構成要件のうち
 「少なくとも3箇所で固定する」とあったところを
 「2箇所だけで固定する」ように設計変更し、
 念のために別の要件についても
 充当しないよう変更することにしました。
 変更後の性能が低下しないよう工夫したのは言うまでもありません。
 彼は、また新しい特許ネタが出来たと喜んで帰っていきました。
 開発の現場では、限られた期間内に高い要求仕様を満たすことを常に要求され、
 他人の出願状況を事細かにチェックする時間がなかなかとれません。
 しかし、人間誰しも、追い込まれると
 無意識のうちに同じ様な発想で課題をクリアしていくということが
 往々にして起こり得ますので、
 後発の場合には先人の特許に抵触しないよう注意が必要です。
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