知的財産ってわかりますか・中村佳正

無から有を生みたい人、必見

第22回
その毛生え薬、『大森林』といいます

毛生え薬といっても特許の話ではありません。
『大森林』と命名された
育毛剤にまつわる商標権侵害事件の顛末を通して、
商標の奥深さの一面を感じていただければと思います。
まだ、このコラムで
商標の基本を十分にお話していないことは承知の上で、
まずはお付き合い下さい。
この事件は、第三者に使用された商標が
登録商標に類似しているか否かがさんざん議論されて、
最高裁まで争われた事件です。
平成4年に最高裁判決が出ました。

商標権者は、指定商品を
「せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」とする
『大森林』という登録商標を有していました。
指定商品というのは、
トレードマーク(ここでは『大森林』)の使用対象となる
商品の品目です。
商標登録はトレードマークと
指定商品(又は指定役務)とのセットで登録されます。

さて、この商標権者は、
関連会社にこの登録商標の使用を許諾し、
許諾を受けた関連会社は、
薬用育毛剤を文字通り『大森林』と命名して
製造、販売していました。
一方で、この商標権者に訴えられた会社は、
「木林森」という商品名で、
やはり育毛剤などを製造、販売していました。

皆さんが『大森林』の商標権者だったとして、
他人が製造販売を開始した同種の育毛剤「木林森」を
もし店頭などで見かけたらどうお感じになりますか?
「あっ、人の真似して許さないよ!」と思われますか?

しかし、ちょっと待ってください。
『大森林』と「木林森」とは、本当に似ているといえるでしょうか?

まず、見た目が「微妙に異なる」というレベルよりも、
さらにもう一段異なっているといえそうです。
例えば、登録商標『大森林』に対して、
「太森林」とか「大林森」であれば、
「大」が「太」に替わっただけとか、
「林」と「森」が入れ替わっただけですから
素直に紛らわしいと言えるでしょう。
しかし、「木林森」となると、「大」の字が、
見た目も意味もはっきりと異なる「木」に替わっていますし、
かつ、「林」と「森」の位置も入れ替わっていて、
ちょっと一筋縄ではいかないのではという意見も出てきそうです。

事実、地裁及び高裁では、
『大森林』と「木林森」は非類似と判断されました。
それが、最高裁では大逆転です。
つまり、最高裁は、両者は類似すると判断したのです。
それくらい判断が難しかったのです。


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2007年10月9日(火)

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