知的財産ってわかりますか・中村佳正

無から有を生みたい人、必見

第23回
『大』の字が『木』の字に替わると?

前回、いずれも育毛剤に使用された
2つの商標『大森林』と「木林森」とが類似といえるかどうか、
問題提起させていただきましたが、
この事件を例に使って
商標の類似性の基本的な判断手法をご紹介します。

その判断手法は、やはり最高裁により、
昭和40年代に示されました。
同一又は類似の商品に使用された商標の
「外観」「称呼」「観念」を比較してみて、
取引者に与える印象や連想などを総合的に判断するというものです。

まず「外観(がいかん)」ですが、これは商標の見た目です。
『大森林』と「木林森」の例では、
「大」の字が「木」の文字に替わっており、
「森」と「林」の位置が逆になっていることによる
外観上の相違です。
「大(だい)」を「太(ふとい)」に替えるのならともかく、
個人的には、やはり、
「大」の字が「木」の字に替わることで
見た目が随分異なってくるように思うのですが、
最高裁では、
「“大”と“木”の字は、筆運びによっては紛らわしくなる」
との心憎い指摘をしています。

次に「称呼(しょうこ)」ですが、
これは商標を読んでみたときの音感をいいます。
『大森林』は、普通「だいしんりん」と読むと思います。
それを口にしたときに与える音感的な印象が
似ているかどうかを比べてみるのです。
そこで、「木林森」についてですが、
「もくりんしん」あるいは「きばやしもり」
と読むのがオーソドックスかなと思いますので、
称呼の方は、あまり似ていませんね。

そして、「観念(かんねん)」は、
その商標を見たときに想起される心証です。
この事件の最高裁判決では、
ほぼここが決めてとなって類似と判断されたのです。
判決では、
「両商標はいずれも増毛効果を連想させる樹木を想起させる」
ので紛らわしい関係にあると指摘しています。

つまり、普段から育毛や増毛を強く望んでいる人たちは、
育毛剤に「森」とか「林」とかがつくと、
もう見さかいがなくなって
直ぐに飛び付いてしまうんじゃないかと
最高裁が心配したということなのでしょうね。
私は、思わず裁判官の身の上についても
想像を逞しくしてしまったのでした。

この事件の最高裁判決では、はじめに取引の混乱防止ありきで、
市場での『大森林』と「木林森」との両立が
結論として許されるべきか否かに
重点がおかれたといえるのかもしれません。


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2007年10月11日(木)

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