| 第33回『TIGER(S)』は誰のもの?
 『阪神優勝』の話題が続きましたが、タイガー(Tiger)といえば阪神タイガース、
 と言ってしまうにはちょっと無理があります。
 例えば、タイガー魔法瓶株式会社は
 「タイガー(TIGER)」の商標を使用して
 昔から魔法瓶や炊飯ジャーを販売していますし、
 吉野石膏株式会社には
 「タイガーボード」という主力商品があります。
 紙面の都合で全部は取り上げられませんが、
 この他にもタイガーや虎関係の商標が多数あります。
 ですから、「タイガー」といえば阪神球団(株式会社阪神タイガース)の
 独壇場という訳ではないのですが、
 実は、この「TIGER(S)」の商標をめぐり、
 阪神球団とタイガー魔法瓶株式会社との間でもめたことがあります。
 ちょうど『阪神優勝』事件と時期が重なっていますので、
 併せてご紹介したいと思います。
 タイガー魔法瓶株式会社が登録を受けていた商標は「TIGERS」でした。
 「TIGER」ではなくて、「S」がついていたのです。
 この登録商標に対して阪神球団が無効請求して
 特許庁が無効との判断をしたために、
 今度はタイガー魔法瓶がこれを不服として
 特許庁の判断の取り消しを求める訴訟を起こしました。
 結局、この争いは、今後タイガー魔法瓶は「S」がつかない「TIGER/タイガー」を使い、
 阪神球団は「S」をつけた「Tigers/タイガース」を使用し、
 なお且つ字体もお互い違ったものにするなどの取決めを行って
 和解に至ったようです。
 当時の『阪神優勝』事件で
 阪神球団側も少々過敏になっていたのかも知れません。
 タイガー魔法瓶にしたって、
 ハウスマークの「TIGER」は昭和25年に登録されていますから、
 無効にされたのが「S」のつく「TIGERS」であったとはいえ、
 指定商品は家庭用品や鍋類に限られていたようですし、
 おいそれと引き下がることはできなかったでしょう。
 このように、お互いの業種が異なると、混同をきたすことなく
 それぞれが需要者に浸透していくことは起こり得ます。
 そうして、何れか一方が、或は双方が全国区になったときに、
 業種が異なっていても両者の区別がつかなくなることがあります。
 その場合に調整が必要になってきます。
 特許発明は、改良を重ねて出願ごとに成長していくものですが、
 商標は、獲得される信用の度合によって、
 登録後であってもまるで生き物のように変容します。
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