知的財産ってわかりますか・中村佳正

無から有を生みたい人、必見

第43回
治療方法になったりならずに済んだり

前回の話をもう少し掘り下げます。
日本では、例えば「医療機器の作動方法」について、
それが医師による医療行為や
人体に対する作用に該当する場合には特許の対象にはしないが、
医療機器自体に備わる機能を方法として表現した場合には
特許の対象にする、
という少しわかり辛いお話でした。

近年話題の遺伝子治療について考えてみましょう。
例えば、発明の名称を「遺伝子治療方法」とし、
その発明の中身を
「Xタンパク質をコードするDNAと
Yタンパク質をコードするDNAを含む
Zベクターをヒトに注射することにより、癌を縮小させる方法」
としたとします。
これは、遺伝子組替えベクターを
人体に注射することを含むものであり、
「人間を治療する方法」に他なりませんから
特許の対象とはなりません。

一方、発明の名称を「遺伝子治療のための細胞の製造方法」とし、
その発明の中身を
「人体から取り出されたW細胞に、
Xタンパク質をコードするDNAと
Yタンパク質をコードするDNAを含む
Zベクターで遺伝子を導入することを特徴とする
癌治療用細胞の製造方法」
であるものとすると、
これは「人を治療する方法」には該当しません。
ここが最新の判断基準の特徴です。

このように、人間の細胞を原材料とするものであっても、
いったん人体から採取して
遺伝子組替えなどによる細胞製剤を作る行為は、
医薬品の製造と同列に取り扱おうという動きになっているのです。

話を「医療機器の作動方法」に戻して、
心臓ペースメーカーを考えてみます。
電子機器の観点から、心拍より得られる電気信号を検知して解析し、
心拍数が最適になるような
パルスの発生間隔を制御することが特徴だといえば、
「ペースメーカーの制御方法」として
「人間を治療する方法」には該当せず、特許の対象となります。

しかし、こうしたペースメーカーを使った
「電気刺激方法」として発明を特定してしまいますと、
これはペースメーカーという医療機器による
人体に対する作用であるため、
「人間を治療する方法」と見なされてしまいます。

本質的な中身は同じでも、
書き方によって人間を治療する方法と見なされたり、
見なされずに済んだりします。
摩訶不思議な現象ですが、
医療関係はこれからも議論の対象となるところです。


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2007年11月27日(火)

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