知的財産ってわかりますか・中村佳正

無から有を生みたい人、必見

第54回
職務発明を考える

企業にお勤めの特許出願経験者であれば、
「職務発明」がどういったものか、
社内研修などでいろいろ聞いておられることと思います。
金融の世界では、今年秋から改正された金融商品取引法によって、
金融機関の説明責任がいっそう問われる時代になりましたが、
職務発明については、もう何年も前から、
従業員に対する説明責任を果たそうと
努力する企業が数多く出てきています。
それもこれも、ここ数年で、
職務発明に関わる大型訴訟が続出したからです。

日立、オリンパス、味の素と、
いずれの訴訟事件でも
企業側に数千万から億単位の支払命令が出ました。
中でも特に印象深いのは、日亜化学の青色LED訴訟と思いますが、
こちらは約8億円の和解金で決着がつきました。
しかも一審では、
発明の対価相当額は600億円であるとの判断が示されましたので、
皆さんも驚かれたことと思います。

こうした事件を振り返ってみますと、
各々の従業員の方は企業からずっと冷遇されてきた、
というのが共通のシナリオになっているようです。
確かに、職務発明にまつわる訴訟を争った従業員の方々は、
終身雇用の庇護のもと、
一所懸命に会社に尽くしてこられた方が多かったと言えるでしょう。

いろいろな考え方があると思いますが、
私がメーカーで実際に見てきたところでは、
確かに、優秀な技術者の貢献によって、
いくつもの基本発明に裏付けされた
数百億円のビジネスが成立した例もあります。
しかし、一方で毎年多額の研究費を会社に負担してもらいながら、
ついぞ陽の目をみることなく
闇に葬られたテーマも数多くありました。

判決の支払命令額は、
いずれも発明者が不当に過小評価されている
との判断に基づいたものです。
しかし、
日頃リスクを取らずに済んでいる他の多くの社員がいることも、
もう少し考慮に入れる必要があるのではないかなというのが、
私の感想です。

誤解のないように付け加えますと、
実施料が1億円入ったから500万円欲しいというなら、
3000万円の研究費を投入してもらって成果が出なかった場合に
150万円弁償しますかということです。
特許出願にしても国際出願なら権利になるまでに、
1カ国あたりおよそ150万円かかりますが、
そのうち5万円でも出資しましたかということです。
お金だけではありません。
一つの出願を特許にしていくためには、
知財部門スタッフなど多くの方々の
長年にわたる粘り強い協力が欠かせません。

社内制度として難しい面もあると思いますが、
発明者さんの意識をガラッと変えて
企業の知財マインドに新風を吹かせるためのヒントは、
このあたりにあるかもしれませんね。


←前回記事へ

2007年12月22日(土)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ