知的財産ってわかりますか・中村佳正

無から有を生みたい人、必見

第99回
機械式腕時計には技術の古典が詰まっています

90年代後半くらいから日本でも機械式腕時計ブームが起こりました。
それまで腕時計といえば、
年差10秒くらいで何年も止まらず動きつづける
クォーツ時計が当たり前でしたので、
一見技術の逆行ともいえるこの現象は、
消費動向の変化を知る上で
大変参考になったのではないかと思います。

いくら精度がよくなっても、人間自身は、
分刻みはあっても秒刻みで動けるわけではありませんし、
1日に10秒程度しか狂わない時計であれば
日常生活において十分であるということを
日本人もようやく悟ったということでしょう。
そんな無意味な機能の追求よりも、
機械式ムーブメントの見た目の美しさや、
ゆったりとした動きから伝わる温もりのようなものに、
現代の日本人はある種の癒しを求めたのかもしれません。
精度はクォーツの何十分の1なのに
価格は何十倍でも飛ぶように売れる理由は
そのあたりにもありそうです。また、
高級な機械式時計であれば
「親から子へ、そして孫へ」という継承も可能にしてくれますから、
オーナー心はさらにくすぐられます。

こうした魅力ある機械式腕時計の基本技術は、
約200年前には完成していました。
腕時計を開発したのは20世紀はじめのカルティエですが、
ほぼ同じ機構を有する懐中時計はそれ以前に成熟されています。
例えば、動力としてのゼンマイ、各種の歯車の配列(輪列)、
ヒゲゼンマイと天賦(テンプ)によって振り子の役割をする調速機、
それにアンクルとガンギ車を用いて
規則正しい振動を生み出す脱進機の各構造は、
今使われているものと比べてさして違いはありません。

基本技術のみならず、
ミニッツリピーターやトゥールビヨン、
永久カレンダーといったマニア垂涎の複雑機構も、
ブレゲというたった一人の天才によって
18世紀後半から19世紀初頭にかけて考案されたものです。

高度な技能や熟練した技能が製品にのり移ると、
他人から見ればそこに価値が見出されるのです。
人手をかければ付加価値がのるという基本は、
工業製品や芸術品などの動産に限らず、
不動産や株でもきっと同じことですね。


←前回記事へ

2008年4月5日(土)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ