| 第98回腕時計は技術革新の宝庫です
 時計が腕時計として携行されるようになったのは、飛行中に操縦桿から手を放すことなく時間を確認したいという
 ブラジルの大富豪飛行家サントスの要望に応え、
 カルティエが1904年に提供したものが最初と言われています。
 以来、腕時計の進化はその時代時代の革新技術を常に身にまとってきました。
 兵器特許(第94回)でもお話した通り、
 やはりここでも軍事利用というニーズが進化を推し進めます。
 砂漠などの苛酷な環境においても壊れないこと、
 水深何十メートルの海中でも問題なく使用できることなどは、
 主として時計の材質(材料工学)の進化によって
 実現されるものです。
 単にケースの材料だけでなく、動力源のゼンマイについても
 「しなやかで切れない」材質が研究されました。
 振り子の原理を腕時計という小さな空間内に持ち込むために、ヒゲゼンマイを持った天賦を往復回転運動させて
 アンクルとガンギ車で振動を制御するといった機構は、
 約200年前の精密機械分野における一大革命です。
 貴族や大金持ちの楽しみといった面からは複雑な機構が好まれる傾向があるため、
 ミニッツリピーターやトゥールビヨンといったギミックに
 惜しげも無く大金が投入されました。
 現在はそのブランドが
 スウォッチグループの傘下になってしまいましたが、
 ブレゲ(Breguet)は
 フランス革命の時代に活躍した仕掛け時計の天才で、
 マリーアントワネットも大の贔屓にしていたことで有名です。
 ぐっと、皆さんの身近なところで現代の腕時計を見ても、動力源としてのゼンマイは水銀電池や太陽電池となり、
 事実上「止まらない時計」が当たり前になりましたし、
 70年代に日本のメーカーが全世界を席捲したクォーツ時計は、
 電気・電子工学の結晶といえましょう。
 さらに、最近では通信機能をもったものも珍しくありません。
 今一番流行の通信機能は、世界3局に対応した電波時計でしょうか。
 文字盤やケースに宝石を散りばめると高価な宝飾品としての性格も帯びてきますし、
 プロダクトデザインを織り込む余地も大きいことから、
 腕時計は見た目とはうってかわって
 本当に間口の広い商品といえます。
 次回から、機械式時計に絞ったテーマでもう少しだけお付き合いください。
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