知的財産ってわかりますか・中村佳正

無から有を生みたい人、必見

第123回
判決文にも名文あり

明細書を書くとき何に注意すべきかについては、
大小さまざまにあります。
小の部分で具体的な例を挙げますと、
物の構造を言葉で表現するときに、
「板の両端の中央に付設したA棒」という表現があったとします。
この場合の「A棒」は板の両端の
厳密に中央となる位置に取り付けられていることになります。
板の両端が1メートルであれば、
ちょうど50.0000...センチのところになり、
ゼロが限りなく続く精度になります。
これって非常に狭い表現ですよね。
微小の点で表現されてしまったこの「中央」から
1センチずれてしまったら
発明の構造とはもう別物になってしまうのかという疑義が生じます。

そういう疑義をできるだけ排除して、
発明の趣旨を言葉でなるべく拾おうと思ったら、
例えば「中央部」と書けばよいことになります。
中央部分ということです。
こうすると、1センチくらい中央から外れてしまっても
発明の趣旨は崩れていないと主張することが可能になってきます。
これはホンの一例です。

明細書に書く対象は工業製品の全範囲ですので、
それこそ精密機械の複雑なギミックも
図面を使いながら動作を逐次文章で丁寧に表現していきます。
ビデオデッキにビデオテープが自動的に格納されていく動作は
言葉ではとても表現しきれないくらい複雑なものですが、
特許明細書においては意地らしいほど丁寧に、
順を追って言葉で説明されています。
図面はあくまでも途中段階の状態を確認する補助説明に過ぎません。

明細書の書き方は、
コツをつかめば特許庁で公開されている公報を見て勉強できます。
しかし、私がもっと感心するのは、判決文の表現です。
事実関係の説明、事物の表現、心理描写等々、
文学表現ではないものの、
なるほどと唸らされる表現が随所に見られます。
読む人を納得させる必要があるのである意味当然ではあります。

有名な事件の判決文から表現を拾ってみます。
ある事物を表現したものですが、何のことだかわかりますか。

「本件商標は、『××××』の文字を上部に、
『▲▲▲』の文字を下部にそれぞれ横書し、
その中間に、水兵帽をかぶって水兵服を着用し
顔をやや左向きにした人物がマドロスパイプをくわえ、
錨を描いた左腕を胸に、手を上に掲げた右腕に力こぶをつくり、
両足を開き伸ばして立った状態に表された、
文字と図形の結合から成るものである。」

答えは下の図です。
証拠として実際に裁判所に提出された登録商標の図柄です。
私は名文だと思いましたが、いかがでしたでしょうか?


←前回記事へ

2008年5月31日(土)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ