元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第1546回
ジキルとハイド=薬に「善玉と悪玉」あり

薬学界の「鬼部長」と異名を持つ名物先生=
富山医科薬科大学・名誉教授・堀越勇さんの新刊文庫本、
「くすりの裏側―これを飲んで大丈夫? 」
(堀越 勇・著 集英社文庫500円税込)の話の続きです。

くすりに関する非営利組織「NPO医薬ビジランスセンター」※1
医療にとって本当に必要であり、安くて良いお薬、
つまり「ゴールデンピル賞」なるものを発表したことを快挙だと
ただ褒めるだけでなく、この薬学界の「鬼部長」は、
業界に対する辛口の批判も忘れていません。

「製造販売が認められている医薬品を
非営利組織が評価し、結果を堂々と
公表できる民主的情報公開社会に、
日本が成長したことを、
筆者は心から歓迎するものです。
薬の歴史を紐解くと、昔から薬が両刃の剣であることは、
認識されながら、営利という圧力によって、
常に歪曲されてきました。
現在も歪曲が無いわけではありません。
ですから、この評価は二十一世紀初頭における
薬史学上の快挙といえましょう。
今後は良い薬が利益が上がらないことが理由で、
オーファンドラッグ(注・研究開発が後回しにされる薬)
にならないような、
政治的配慮が必要です」
と警鐘を鳴らし、具体的に薬品名を挙げて
検証しているところが、面目躍如たるところです。

             *

今回の授賞で一つ気になったのは、スクラルファートでした。
このお薬は、お砂糖、
蔗糖の硫酸エステルのアルミニウム塩なのです。
確かに胃潰瘍には効果があり、
アメリカのFDA(食品・医薬品局)も認めている薬剤です。
これを開発した研究者は、
たまたま筆者と同期に中外に入社し、
ヘパリンの合成を担当。その後公的機関に転出したN氏です。
筆者もストレス性潰瘍を患った三十余年前、愛用いたしました。
 この薬剤が授賞対象になったことを知った、
かなり多数の友人・知人から、アルミニウム塩であることに
疑問が投げかけられました。
筆者も同様です。
今後どのような運命を辿るのか
注目して行きたいと思います。

         *

さらに興味を引く内容が公開されています。
医薬ビジランスセンターは、
このほかに
「ジギルハイド賞」と「デビルピル賞」
を公表しているというのです。
「ジギルハイド賞」は、必須薬ではあるが、
よい面と悪い面があるので適正に対処せよ、
という警告の意味を込めた賞。
「デビルピル賞」は、存在しない方がよい
製造中止にすべきとの烙印が押された薬――、だというのです。
では「危ないくすり」「悪魔のくすり」とは何か?

くわしくは、
この文庫本を読むか、
「NPO医薬ビジランスセンター」の
ホームページを参考にして欲しいのですが、
「ジギルハイド賞」には、
僕も腹痛を起こした時によく貰う薬・
ガスター(胃腸用剤抗潰瘍剤=H2ブロッカー)
なども入っていることでした。
また「デビルピル賞」として、
製造中止にすべきとの烙印が押された薬の中には、
分子標的の抗ガン剤として注目を集めた、
イレッサ(ゲフィチニブ=EGFR-TK阻害剤)
などが入っていることです。
ご存知のように、イレッサの副作用で
多くの死者が出たことは社会問題になりました。

「馴染みのある薬剤が沢山出てきます。
これらに対する評価は、医療関係者、製薬関係者、行政関係者、
そして被医療者である我々患者によって異なることでしょう。
患者の皆さんは自分が服用している薬について、
考えて見る良い機会ではないでしょうか」
と、富山医科薬科大学・名誉教授・堀越勇さんは
歯に衣を着せずに警鐘を鳴らしています。
この文庫本を贈ってくれた構成者の永田由紀子さんは
本当に患者の役に立つ、いい本を作ったものだと感心しました。

※1  http://www.npojip.org/jip_menu/jindex.htm


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2006年11月20日(月)

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