元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第2026回
「百年前の真実」を探る旅(1)

2月の末に、温泉保養を兼ねて
和歌山県の南紀白浜に数日間逗留していました。
どうも、温暖化の影響か、この冬から春の変わり目は、
寒くなったり暖かくなったり、気候の変化が激しく、
せきが止まらない風邪を引いたりして、
体調がいまいち優れませんでしたので、
こんなときは空っ風が吹きまくり、
インフルエンザが猛威を振るう、
東京でうろうろして過ごしているより、
温泉にのんびり浸かって本格的に到来する春を待つのが、
体にはいちばんよい、と考えたからです。

白浜温泉は、道後温泉(愛媛県)、
有馬温泉(兵庫県)とともに、
日本書紀などにも出てくる三古湯の一つですが、
ホテルの部屋からは白くカーブを描く大砂浜が見渡せる絶景です。
この海水浴場は毎年ゴールデンウィークには海開きを行い、
夏のシーズンは多くの海水浴客で賑わう・・・
まさに南国の楽園ですが、ちょうど、梅見時の季節というわけで、
はや、ホテルもお客で満員でしたが、
ところが、びっくりしました。

僕達が着いた翌日、
なんとこの南国の温泉地にも雪が舞ったのです。
地元のタクシーの運転手さんなどもびっくりしていました。
地球の環境が狂っているとは知ってはいましたが、
人間の命だけでなく、自然、風土の命も
病に瀕しているのだなあと、妙に感心したりしてしまいました。

でも、ここ白浜一帯の高温を噴き出す温泉は
火山性の温泉ではなく、
太平洋から潜り込んだプレートが噴出す
高温の地下水が滞留しているものということ
源泉温度32〜85度で泉質は食塩泉・炭酸泉・重曹泉であり、
効能は胃腸病・神経痛・リウマチなどとありますから、
おかげで、僕の風邪も快方に向かい、
リウマチのカミサンも快適に過ごせたようでした。
風邪菌の舞う都会に暮らすより、
珍しく雪の舞う白浜温泉の数日間は、
温度調整されたホテルの中で暮らし、
気が向いたら温泉に浸かって
体を温めて過ごせたわけですから、
まさに、優しく体をいたわる保養となり、
どんな風邪薬や注射より効いたように思いました。

もちろん、南紀・和歌山まで新幹線を乗り継いで、
わざわざ出かけたのは保養だけが目的ではありませんでした。
まえに、このコラムでも書きましたように、
僕は、いまから100年前に起こった
大逆事件という前代未聞の「暗黒裁判」のノンフィクションを
この4月に出版するのですが、
その最後の取材をすることもあって、和歌山を訪れてわけです。

大逆事件というのは、いまから、約100年前、
明治43年に発覚し、
当時、社会主義の天才的論客・幸徳秋水以下12名が絞首刑となり、
12名が無期懲役となった日本全島を震撼させた
「天皇暗殺・未遂事件」ですが、
これが、いまの民主主義の社会から見れば、
当時の軍権政府による言論弾圧、事件でっち上げともいえる
いわば「冤罪裁判」のルーツみたいな性格を持つものでした。

人間の運命とは不思議なものですね・・・。
僕の母方の祖父は、この幸徳秋水・大逆事件の起こった100年前、
南紀白浜から急行に乗って1時間ほど南に下った、
新宮という町でキリスト教の牧師をやっておりまして、
この田舎町から、
なんと祖父の盟友たち6名が大逆の嫌疑で逮捕され、
もちろん、祖父も取調べを受けたのですが、奇跡的に逮捕を免れ、
やがて、激しい言論弾圧下の中で、
この事件の真相を長編小説「宿命」と題して
大阪朝日新聞に公表し、
文壇にデビューした
大正期の流行作家となった変わり者なのでした。

というわけで、今回の南紀白浜・保養の旅は、
百年前の「真実」を探る旅でもあったわけです。


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2008年3月14日(金)

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