元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第2052回
60年前の「真実」を伝える日記

中学生の満州敗戦日記」という新書が送られてきました。
著者は元レリアン社長、元レナウン専務の今井和也さんで、
僕が昔、週刊誌の編集長の頃、
広告でお世話になった先輩です。

この本は、今井さんが中学生のとき、
満州(いまの中国・東北部)のハルピンで
敗戦を迎え、家族とともに、
苦難の末に、母国日本に帰ってくるまでの8年間――、
日本が無理やりに植民地とした
「満州帝国」の存亡を、
純真な子供の眼で、さらに肌身で捉える、
「等身大の歴史ノンフィクション」なのです。

さて「大東亜共栄圏」「八紘一宇」の掛け声とともに、
満州国は1932年に建設され、
1945年、ソ連軍の満州侵入、天皇の終戦宣言で消滅する――、
まさに「砂上の楼閣国家」であったわけですが、
「日本は神国である」と信じ込まされ、
ハルピンで幸せな生活をしていた今井少年も、
ついに飢えと略奪と逆襲におののく、
奈落の世界に突き落とされるわけです。
なんと日本軍の精鋭と言われた
関東軍は開拓民を置き去りにして逃げ出したというのですから、
町は大混乱に陥ることになります。
「棄民」とされた中学生の今井少年は、
ソ連兵の「靴磨き」をしたり、
家族と一緒に「大福もち」を売ったり、
建築設計士であった父の発案で「手作り花札」を売ったり、
波乱万丈の8年間の末に、
緑深き故国・日本に帰ってくる――、
手に汗握る「60年前の中学生日記」です。

もちろん、話は、いまから60年も前の歴史事件です。
数十万人の開拓団が移民として渡った――、
中国大陸を侵略するために
関東軍が盧溝橋事件をたくらんだ――、
対ソ連戦争のためにハルピンに731細菌部隊が作られた――、
といわれても、いまの若い読者には
肌身で分かりにくい部分があるわけですが、
この本では、難しい歴史資料を噛み砕いて、
平易な解説を要所要所に挿入していますから、読みやすい。
ただの主観的な日記に終わらず、
戦争を知らない世代に生身の歴史を知らせたいという
意欲に燃えた秀作だなあと思いました。
僕なども、話の展開にドキドキしながら、
一気に読ませてもらいました。

今井さんは、成人してから、
アパレル業界大手のレナウン宣伝部に入社。
中高年の人なら覚えている、
「ワンサカ娘」や「イエイエ」といった画期的なCMを作り、
1967年のACC(全日本CM協議会)
CMフェスティバルでグランプリ、
アメリカンテレビCMフェスティバルで
繊維部門最優秀賞を受賞して勇名をはせたのです。
退職後は大学教授となって後輩の養成にあたり、
何冊も著書を残していますが、
僕より、10歳ほど年上ですから、
おそらく77歳の喜寿ではないかと思います。

喜寿を迎えて、自らの人生歴と思想発想を、
後世に残そうという熱誠といいますか、
「いのちのバトンタッチ」の心意気に尊敬を覚えます。
戦争を知っている60代、70代の人たちはもちろん、
10代、20代、30代の皆さんも
ぜひ本書を読むことをお勧めします。
この不確定な時代に
「僕たちの社会はどう作っていったらよいのか?」
という命題にも的確に答えを送ってくれるものを
秘めているなあと、僕は思いました。


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2008年4月9日(水)

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