| 第2095回週刊ポストの書評=なぜいま「大正霊戦記」か?
 
 お蔭さまで、拙著「大正霊戦記―大逆事件異聞 
          沖野岩三郎伝」には多くの読者のみなさんから、丁寧な手紙がたくさんいただき、
 また各紙誌でも好意的な書評が掲載され始めています。
 
 5月には「週刊ポスト」(5月23日号)※1、
 さらに、本書の主人公・沖野岩三郎をはじめ、
 大逆事件の「紀州グループ」と呼ばれた人たちのいた
 新宮市など――、和歌山県紀南を中心に発売されている
 地元の有力紙「南紀州新聞」(5月14日付け)※2の
 書評欄にかなり大きく掲載されましたので、
 みなさんの中にも読んだ方がいるかも知れません。
 
 さて、週刊ポスト書評欄では、
 気鋭のノンフィクション作家の岩瀬達哉さんが
 「100年前の“国策捜査”を記録した作家の数奇な運命」
 と題して高評してくれました。
 ちなみに、岩瀬さんは、年金問題や
 新聞記者クラブ制度に鋭い批判を加え、
 官公庁と記者との癒着を暴く
 『新聞が面白くない理由』などの著書があり
 年金官僚の堕落を暴いた『年金大崩壊』では
 講談社ノンフィクション賞を受賞しています。
 以下、拙著「大正霊戦記―大逆事件異聞 沖野岩三郎伝」
 に関する抜粋です。
         * 『大逆事件』は、明治末期、社会主義者の幸徳秋水が中心となって企てた天皇暗殺未遂事件とされている。
 事件に連座した社会主義者や進歩主義者は26人。
 うち12人が絞首刑にされた。
 明治憲法下では、天皇に危害を加えようと
 「謀議」すれば「死刑」となった。
 しかし謀議は「茶飲み話」や「舟遊び」の場で
 「日本民主化」を語り合い「賛成の署名」をしたというもの。
 「すべて煙の様な過去の座談を、
 強いて此事件に結びつけて了った」ものだった。
 背景には、「無政府主義や社会主義にかぶれる青年たちを
 『あってはいけないもの』として
 病原菌のごとく排除・抹殺」し、
 その死を見せしめとしたことで、
 「国家が個人の心や魂までもし支配しようとした」思惑があった。
 このおよそ信じがたい“国策捜査”の実態と、
 国家によるフレームアップの恐怖を、
 当時、記録していたのが本書の主人公沖野岩三郎である。(略)
        * 岩瀬さんは拙著の製作意図を正鵠に捉えてくれて、じつに100年前に起こり、いまなおタブー視されている、
 空前の大逆事件と、その真相を弾圧下で書き続けてきた
 作家・沖野岩三郎の事跡の意義をいま問題になっている、
 「国策捜査」との関連の中でとりあげてくれたわけです。
 
 昨今、“国策捜査”が冤罪事件に加えて
 国家と個人に関わる問題として注目されています。
 起訴休職外務事務官で、
 ベストセラー作家の佐藤優さんが、
 自ら蒙った逮捕事件を「国家の罠」と断じ、
 “国策捜査”として提起し続けています。
 みなさんの中でも
 佐藤さんの本を読んだ人もたくさんいるでしょう。
 ちなみに”国策捜査”とは国家が自己保存のために
 検察をして政治事件を作り出し、
 当初から特定の人物を断罪する目的で行われる捜査のこと。
 突然、ある日、
 あなたが「見せしめの逮捕」の憂き目に会う・・・、
 そうした行き過ぎた見込み捜査と世論操作の弊害が
 いましきりに提起されているわけです。
 まさに100年前の大逆事件とは“悪しき国策捜査”のルーツでした。
 その国家が個人の心魂を差配する――この悪習を醸成したところに問題を残した
 ・・・ここが本書を読み解くポイントです。
 興味のある方はぜひ読んでください。
 また、すでに購入した方もじっくりと再読してください。
 ※1 http://www.weeklypost.com/
 ※2 http://www.minamikisyu.co.jp/
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