第47回
ベニスの商人の契約は現在の日本では許されません。

みなさん、「ベニスの商人」の話を知っていますか?
主人公がお金を借りるときに、
貸主に「返せなかったら肉1ポンド切り取る」という約束をして、
返せなかったときに、裁判官が貸主に
「肉1ポンド丁度を切ることは許すが、
それ以上に血液一滴でも余計に取ることは許さない」として、
結局、主人公は肉を切り取られず助かった。
というお話だったと思います。

みなさん、この話はどう思われますか?
私は、子供のころは、「おお、すごい」と感心してました。
でも、かなり成長してからよく考えてみると、
「肉1ポンド切り取る」って約束してるのに、
血が出ることは許さないなんて、屁理屈じゃないか?
と思うようになりました。

一般に契約を解釈するときには、
その行為に必要な行為は当然認めていると考えるのが普通です。
だから、肉1ポンド切り取ることが認められていれば、
肉を切り取る際に血が出てしまうのはやむをえないので、
契約当事者もそれを認めていたと考えるのが普通でしょう。
とすると、現在の日本で
「借金が返せなかったら肉1ポンド切り取る」という約束をしたら
肉を切り取らせることになってしまうのでしょうか?

これはみなさんご安心ください。
もちろん、現代の日本では、そのような約束自体認められません。
民法90条に違反して無効になります。
専門用語で「公序良俗違反」と言います。
「賭け事の負けは払わなくてもよい。」とか、
「愛人契約の報酬は払わなくてもよい」とか言われているのは、
みな同じ理由です。
以前説明した、10日で何割などという高金利が無効だというのも、
この規定に違反するからです。

契約自由の原則と言って契約で何でも決められるのですが、
「これはひどいな」という場合には、
例外的に無効になる場合があるのです。
ベニスの商人の時代のベニスの法律の内容はよくわかりませんが、
そういう考え方がなかったから、
屁理屈のような解釈を裁判官が取ったのかもしれません。


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2002年10月31日(木)

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