第92回
保証金の返還を確実にするには借主も
担保を取るほかありません。

貸主に多額の保証金を預ける場合、
賃貸借契約が終了したときの
返還リスクがあることを説明してきました。
これまで、不動産市場は、貸し手市場で、
貸し手優位となっていましたから、
建物賃貸借契約の内容も慣行も貸し手に
都合がよくできている場合が多いです。

借主が貸主に多額の保証金を預けるというのもその一つです。
例えば、月100万円の賃料で、
10か月分の保証金を入れる場合、
1000万円ものお金を預けることになります。
1000万円ものお金を貸す場合には、
銀行などの金融機関だったら必ず担保を取るでしょう。
ところが、事務所や店舗を借りる場合には、
保証金という名前ではありますが、
実際上は、無担保でしかも無利息で
1000万円ものお金を貸しているわけです。

建物を借りる対価として、賃料を支払った上に、
利息分も貸主に支払っているのと同じです。
賃料の滞納や明渡し時の
原状回復費用などの担保を取ること自体は、
貸主としては経済的合理性がある行為だと思います。
しかし、貸主が多額の保証金を
契約期間中は自由に使用できるということまで、
認めることに経済的合理性はありません。

これまでは、あまりにも貸し手の立場が強かったので、
このようなことが許されてきて、慣行として確立してきました。
でも、賃料滞納や原状回復費の担保のためであるのであれば、
借主の定期預金に質権を設定しておけばよいのです。
契約期間中は貸主側で自由に使いたいのであれば
保証金返還のための担保として
ビルに抵当権を設定することも考えられます。

このような方法を取れば、いざというときにトラブルにならず、
お互いにメリットがあります。
ただし、貸主や不動産屋さんにとっては、
自分たちのメリットを手放すことになりますから、
よほど借りて欲しいという事情でもないと
交渉しても応じてはくれないかもしれません。

どこかの不動産会社がこの連載を見て
「保証金は定期預金に質権を設定して返還を確保します」
ということを売りにして広めて欲しいものです。


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2003年1月16日(木)

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