弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第140回
住友信託vs三菱UFJ Part3

前回に引き続き、住友信託銀行が、契約に違反して、
信託部門について東京三菱と経営統合したUFJに対し、
損害賠償請求した問題についてお話します。
(契約違反をしたのはUFJでしたが、
 UFJは東京三菱と合併したので、
 住友信託銀行の相手は三菱UFJとなりました。)

契約違反を理由に
経営統合交渉の差止めを認められなかった住友信託銀行。
経営統合交渉の差止めを諦め、
契約違反を理由に損害賠償請求をしました。
これが第2ラウンド。
(厳密に言うと、前回までお話した統合交渉の差止請求は
 仮処分という訴訟の前段階の法的手続で、
 仮処分で負けたとしても、
 訴訟で、同じ差止請求を争うことができます。
 住友信託銀行も、訴訟の最初では、
 信託部門の統合の差止め(UFJ信託銀行の売却の撤回)
 を求めていたようです。)

しかし、先日出た判決では、
何と、住友信託の損害賠償請求は認められず、
契約違反をした三菱UFJが勝ったのです。
このニュースを知ったとき、
僕は、裁判の中身を知らなかったので、
こんなことがあっていいのかと思いました。
住友信託銀行は契約を反故にされて、
統合交渉の差止めも認められず、
損害賠償請求も認められないのでは、
踏んだり蹴ったりではないか。と。

しかし、その後、新聞などで、
住友信託銀行の請求の仕方が法律上、
認められない可能性が高い請求だけしか
していなかったことがわかりました。
どういうことかと言いますと、
住友信託銀行とUFJの契約の内容は、
経営統合の協議をして、
統合の条件について合意ができたら、
統合するというものでした。
そして、その統合の交渉は、
住友信託銀行に独占的な権利があるというものです。
とすると、前に話したとおり、
住友信託銀行の守られる権利(契約)は
独占的に交渉できる権利であって、
必ず経営統合できる権利ではないのです。
経営統合の協議をしても、
話し合いがまとまらず経営統合ができないということも、
十分考えられたのです。

したがって、住友信託銀行が、
UFJの契約違反を理由に損害賠償請求できるとしても、
経営統合ができていればこれだけ利益が出たのに
経営統合ができなかったので利益が得られなかった
という損害の賠償は認められない可能性が高かったのです。

新聞報道で見る限り、それにもかかわらず、
住友信託銀行は、経営統合ができていれば
得られていた利益を含め
経営統合できなかったことによる損害のみを請求したようなのです。
これに対し、裁判所は、
経営統合することが確定した契約ではなかったのだから、
経営統合したら得られた利益など
経営統合できなかったことによる
損害の賠償請求を認めなかったのです。


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2006年3月21日(火)

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