弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第141回
住友信託事件の教訓

住友信託銀行が三菱UFJに対し、
独占的交渉権を定めた契約違反を理由に
損害賠償請求した訴訟は、
1審で、敗訴してしまいました。
その理由は、前回お話しました。
住友信託は、当然控訴しましたが、
報道などによれば、1審で、経営統合できていれば
得られた利益については損害賠償請求を認めない
と判断されたので、控訴審では、請求金額を減額して、
経営統合することを期待したことによる損害だけを
請求したようです。(報道からは正確な内容はわかりません。)

裁判は、住友信託の損害賠償請求を
一定金額で認める可能性が高いと思います。
しかし、住友信託の主張する金額のうち、
どういう項目が損害として認められるか、
また、いくらを損害として認められるかは、
なかなか難しい問題です。
そもそも、独占交渉権を定めた契約を守らせるためには
どうしたらよかったのでしょうか?

これには、新聞やテレビの報道でもあったとおり、
違約金を定めることが有効です。
違約金というのは、契約に違反したらいくら支払うという
罰金のようなものです。
住友信託銀行が合意書にこの違約金を定めておけば、
UFJ銀行が独占交渉権の規定に違反して、
他の銀行と経営統合の交渉をすることはなかったかもしれません。
ただ、実際は、日本の取引社会で、
契約に違約金の条項を入れるのは大変なことです。
取引をするときに契約書を交わすことだけでも、
抵抗感のある経営者が少なくありません。
普通は、口頭の口約束で取引がされていることも多いのです。
そういう現状の中で、
契約に違反したら違約金を支払うという条項を入れるくらいなら、
契約をしないという経営者が多いのです。
そこで、弁護士が、
ここには、契約に違反した場合の違約金を定めた条項を
入れた方が良いですとアドバイスをしても、
なかなか入れられないのが現状です。

ただ、契約を結ぶ際には、
違約金条項を入れないとどういうリスクが伴うのか、
知っておく必要はあると思います。
これが、住友信託銀行事件の教訓です。


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2006年3月23日(木)

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