弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第203回
耐震工事には店子の補償が必要か

久々に、読者からの質問を取り上げます。
質問は、

「ビルの1階部分が
耐震性の問題があると言われたので、
耐震工事をしたいのです。
しかし、1階部分には
飲食店が入っており、
耐震工事について、反対されたり、
補償を求められたりすることが
考えられるのですが、
どうしたらよいでしょうか?」


というものです。

確かに、
ビルの耐震工事の内容によっては、
店が開けられなくなる
可能性もありますし、
工事の影響により、
売上が下がる可能性もあります。
そうすれば、
飲食店にとってみれば、
死活問題ですし、
反対されたり、
工事期間中の補償を
求められたりする可能性があります。

しかし、他方、
ビルの耐震性に
問題があるのですから、
耐震工事をしておかないと、
地震により損害が生じた場合に
耐震性に問題があったのに
放置しておいた貸主に責任があると、
やはり、借主から
補償を求められる可能性があります。
どちらにしても、
貸主が責められそうです。
しかし、法律は、貸主に、
建物の保存に必要な工事をすることは、
貸主の義務であり、
権利であると定めています
(民法606条)。

耐震工事も、
この建物の保存に
必要な行為に含まれると思われます。
したがって、貸主が、
耐震工事をしたいと言った場合には、
借主はこれを拒むことはできません。
では、耐震工事によって、
工事期間中、
飲食店を開店できなかった場合の
補償はどうなるでしょうか。
先ほど説明したとおり、
法律上、賃貸物件の保存に
必要な行為は、
貸主の義務でもあり、
権利でもあることから、
全く補償は要らない
ということとなります。

ただ、耐震工事の期間が長く、
飲食店の営業に
差し支えるというような場合には、
借主は、賃貸借契約を解約して、
出て行くことができることとなっています。
法律上はそうなっていますが、
借主と揉めないよう
借主に大きな影響を与えないように、
耐震工事の実施時期を選んで、
工事期間を短くする配慮が
必要だと思います。


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2006年10月31日(火)

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