弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第495回
相続税対策で、経営が不安定に

当たり前の話ですが、
中小企業の経営者の相続税対策は税理士が考えます。

相続税の対策が必要となる資産には、
中小企業の株式も含まれます。
中小企業が不動産を持っている場合、
株価が相当高額になるケースも少なくありません。

そこで、税理士は、
いかに相続税その他の税金を安く済ませるか
という観点から、
株を経営者から移転させようとします。

その結果、甥や姪に
5%未満の株を安い金額で譲渡したり、
110万円の贈与税の控除額を使って
親族に贈与したりするなど、
株が分散するような対策を採ってしまうことが多いのです。

そして、遺言書を作成していなければ、
分散した残りの株を兄弟が
法定相続分により分けることになりますから、
さらに、株は、分散することになります。

しかし、中小企業の意思決定は、
役員選任や決算など、
少なくとも過半数が必要となります。
定款の変更や営業譲渡などは3分の2の賛成が必要です。

したがって、これらの数の株を
後継者が取得できるような形で、
相続税対策をしないと、
相続税の節税はできたかもしれないけれども、
後継者にするつもりの者が
うまく事業を承継できず、
他の者に取られてしまうかもしれません。

あるいは、株を取得するのに、
多大な出費を余儀なくされ、
会社の資金繰りを危うくすることになるかもしれません。

先ほど遺言を作成しない例を挙げましたが、
遺言書を作成しても、
遺産の配分で、遺留分という
他の相続人の最低限の取り分に考慮しないと、
この遺留分を巡って裁判が行われ、
多額の金銭を請求されるおそれがあります。

相続では、多額の相続税がかかるおそれがあるので、
相続税対策は重要だと思います。

しかし、折角の事業がスムーズに承継できないのでは、
何のための相続税対策かわかりません。
相続税対策は後継者が事業を承継したときに
相続税の支払に困らないようにすることが目的なはずだからです。

そこで、中小企業の相続税対策をするときには、
税理士だけでなく、
弁護士にも相談した方がよいと思います。

そもそも、株価を算定したら、
相続税対策は要らないというケースもありますので、
相続税対策と言われて慌てないことが必要です。


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2009年10月8日(木)

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