弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第732回
やはり地震では保険が出ない

通常の保険では、地震による被害は補償されません。
そこで、地震による被害に備えるのであれば、
地震保険に加入するほかありません。

しかし、いくら地震による被害だからと言って、
日常頻繁に起こる小さな地震による被害も、
地震が原因ならば保険金は出ない
というのもおかしい気もします。

その点が争いになった裁判については、
第694回で紹介しました。
第一審の東京地裁判決は、この点について、
「震度5強程度の揺れは、
通常予想される範囲の揺れなので、
地震による被害だからと言って免責されない」と判断し、
保険会社に保険金の支払いを命じました。
これに対し、保険会社は控訴しました。
そして、この度、この事件の控訴審判決が、東京高裁で出ました。

裁判所は、一審とは逆に
「保険契約上揺れの強さや規模が限定されていないので、
地震が原因であれば、免責の対象となる」として、
保険会社に保険金を支払わなくてもよいと判断しました。

この問題は、保険契約の解釈の問題で、
保険の契約内容を定める保険約款(ほけんやっかん)には、
東京高裁の判決が言うとおり、地震の規模や強さを限定せずに、
「地震による被害については免責される」と書いてあります。
 
だから、保険約款をそのまま読めば、
地震の規模や強さにかかわらず、
地震が原因であれば保険金は出ないこととなります。

しかし、地震の被害が免責されるのは、
地震は通常予想できず、
しかも、地震による被害は大規模になり、
通常の保険掛け率では賄えない
ということにあると思うのです。

そうだとすれば、地震が原因の被害でも、
その地震の規模や強さが通常予想できる範囲で、
被害も通常予想される範囲であれば、
保険会社は免責されないという解釈も、
理論上成り立つのです。

まあ、この解釈が成り立つとしても、
それを採用するかどうかは、裁判所が決めることで、
敗訴した原告は上告するでしょうから、
最終的には、最高裁が判断することとなると思います。

さて、どうなるでしょうか。
個人的には、通常予想される範囲の地震による
通常の損害であれば保険金が出るという判断となると、
保険料の賭け率が変わってくる、
即ち、保険料が高くなる、はずなので、
最高裁が一審のような判決を出すかは微妙ではあります。


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2012年3月27日(火)

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