弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第733回
不利な判決が出るくらいなら

新聞報道によると、大手消費者金融会社が、
最高裁での弁論期日指定後に、
相手の請求を全部認めるという行為を行いました。

裁判をしていて、期日まで決まったのに、
その段階で相手の請求を認めるとは、
一体どういう意味があるのか
普通の方にはよくわからないことだと思いますので、
解説したいと思います。

まず、この裁判は、高裁段階では、
大手消費者金融が勝っていました。
そこで、相手が、最高裁に上告したのです。

最高裁の裁判は、通常、書面審査で、
裁判所の法廷で行う弁論は開かれません。
弁論が開かれるときは、基本的に、
高裁判決がひっくり返るときなのです。 

そこで、最高裁で弁論期日が指定されたことから、
大手消費者金融は、自分が逆転敗訴するとわかったわけです。
 
ただ、最高裁で敗訴するなら、
別に相手の請求を認めなくても、判決を得て負けた方が、
自分が負けた理由がわかるので、
判決を取ってもいいように思います。

しかし、大手消費者金融には、
その事件で敗訴判決をもらうことができない理由があったのです。

それは、大手消費者金融が、
同種の訴訟をたくさん抱えており、
それまで、自分が勝訴した高裁判決を相手や裁判所に示して、
他の訴訟を有利に進めていたからです。

ところが、最高裁判決が出てしまえば、
これまで、高裁判決を示されて諦めていた人たちが、
最高裁判決を根拠に、
どんどん訴訟を起こしてくるということが考えられます。

そこで、最高裁で、
どうしても敗訴判決をもらうわけにはいかなかったのです。

したがって、最高裁で、
敗訴判決をもらわない最後の手段として、
相手の請求を認めるという行為に及んだわけです。

これで、この事件ついて知らない当事者や
弁護士相手には、これまでの高裁判決を盾に、
相手の請求を拒むことができるというわけです。

最高裁で裁判期日の指定がされた後で、
相手の請求を認めるという奇妙な行動に出たのには、
このような裏があるのです。


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2012年3月29日(木)

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