第273回
お金持ちになれば幸せになれる、という幻想

私は天津新港の親子の笑顔を見た後も、
8年以上中国に住んで、
貧乏なのに幸せそうな人をたくさん見てきました。

江戸時代の江戸っ子は、
現代よりもずっと貧しかったにも関わらず、
生活を楽しんで、とても幸せな人生を送っていた、
と言われています。
今の北京の人たちを見ていると、
江戸時代の江戸っ子は、こんな感じだったのではないかと、
思わせるものがあります。

北京の夏は午後8時を過ぎても明るいので、
会社を定時に退社して、家族揃って夕ご飯を食べたら、
みんなで公園に行って夕涼みをします。

知り合いとおしゃべりしたり、冗談を言い合ったり、
中国将棋を指したり、凧揚げしたり、
集団で踊りを踊ったり、交通事故や喧嘩を見物したり。
家に帰って寝るまでの時間を、ゆったりと楽しみます。
お金のかからない人生の楽しみ方にかけては、
北京の人たちは天才的です。

一方の日本は、戦後、高度経済成長を経て、
世界第2位の経済大国となり、
日本人は中国の人たちに比べれば、
はるかにお金持ちになったはずなのですが、
どう見ても中国の人たちよりも幸せには見えません。

それでも、もっとお金持ちになれば、もっと幸せになれる、
と信じて疑わない人が多いせいか、
家族の為に、と思って、馬車馬の様に働いた結果、
家族とのすれ違いが多くなり、
思惑とは逆に、家庭崩壊、家庭内暴力、一家離散、
なんていう事が繰り返されています。

3歳の娘は、いつも仕事で家にいないおとうさんから、
誕生日に高価なプレゼントをもらうよりも、
早く帰って来たおとうさんと一緒に、
家の窓を直す方が楽しいかもしれないのに...。

日本人が高度経済成長の代償として失ってしまった良いものが、
中国にはまだ残っている様な気がします。
どういう状態が幸せか、というのは、
人の価値観によって、基準が分かれる所ではありますが、
少なくとも、私の目から見れば、
中国の人たちは日本人よりずっと貧しいにも関わらず、
とても幸せそうに見えます。

日本人が幸せな人生を送る為には、
もっとお金持ちになれば、もっと幸せになれる、という幻想を
断ち切る所から始める必要があるのではないでしょうか。


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