第425回
温州商人の「最初の一歩」

私のパートナーの劉さんは、
北京大学の週末MBAコースに通っています。
子持ちの奥さんなのに、平日フルタイムで働いて、
週末、MBAコースで勉強する。
これが中国女性のバイタリティーです。

劉さんによれば、週末MBAコースの生徒は、
ベンチャー企業の社長や、大企業の経営幹部など、
社会人、それも経営者がほとんどです。
ですので、授業もケーススタディー中心で、
本業の会社経営に役立つ内容ばかり、との事です。

この週末MBAコースには、時々、研修旅行があります。
先日、劉さんは、この研修旅行で温州に行ってきました。
天下に名だたる「中国のユダヤ人」、
温州商人のふるさとで、本物の温州商人から、
温州商法の真髄を学ぶ、というのが、研修旅行の目的です。

劉さんも私も、
上海での不動産投資や、山西省での炭鉱への投資、
ヨーロッパでの企業買収や、北朝鮮への進出など、
最近の温州商人の活躍には全く興味がありません。
潤沢な資金があれば、
そりゃ、いろんな事ができますわな。
零細企業経営者としての私たちの興味は一点のみ、
温州商人の「最初の一歩」です。

さすがの温州商人も、
最初から潤沢な資金を持っていた訳ではないはずです。
裸一貫、何もないゼロの状態から、
どうやって一番最初の事業を立ち上げたのか。

研修旅行から帰ってきた劉さんに、
この質問をぶつけた所、その答えは、
一言で言えば、「ファブレスメーカー」でした。

「ファブレスメーカー」とは、
自社の製造設備を持たないメーカーの事です。
自社では付加価値の高い製品企画やデザインを行い、
実際の製造は提携工場にアウトソースする、
というやり方で、
最近、日本でも注目されてきていますが、
温州商人は何十年も前からファブレスだったようです。

温州商人は、まず、上海などの消費地に行って、
売れている靴や洋服を徹底的に調査します。
その結果を参考に、これなら絶対に売れる、
という製品を企画、デザインします。
次に、そのサンプルを持って、消費地に乗り込み、
大量の注文を取ります。
そして、その大量の注文を持って温州に帰り、
温州の田舎の工場に製品を安く生産させ、
その製品を消費地に納入します。

温州商人は、こういう方法で、
一番最初のタネ銭を作ったそうです。

確かに、この方法なら、
設備投資がいりませんので、
大きな資本は必要ありませんし、
売りの契約が決まってから作るので、
在庫を抱えるリスクもありません。

更に、自社工場は無くても、一応、
自社製品を持つメーカーですので、
既製の商品を買って売るだけの流通業者より
ずっと大きな利益を取る事ができます。

人間、お金が無いなら無いなりに、
何とか知恵を絞るもんですなぁ。


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